あたたかな風が吹いた


厳密には それが熱を帯びているかどうかはわからない。
ただ、奴の表情でそうなんだろうと思った。


俺の感覚でわかる範囲といえば、頭上から断片的に降る木漏れ日が 乾いた地面にしつこく居座る水面を無駄に照らす様と、その熱を持つかどうか定かでは無い風に揺すられた木々の鳴る音だけだ。


 目を細めて道の先を見た。
特に何が見えるという訳でもない。
柔らかな陽射しでぼんやりと霞む前方へ、奴が踏み鳴らす土の音を耳に進む。


そういえば、最後に休んでからどのくらい経っただろうか…

俺は何となくそんな思考になり、ちらちらと見え隠れする天道様に頭を上げる。

戻し際に、奴の笠の下を尻目に見た。
まだ 余裕そうだ



『そういやぁ、…』
その先を言おうとしたが、急に面倒になったからやめた。
やる気の無い呟きが、只でさえ狭い空間に籠る。


「…うん?なんだよ旦那」


チッ…聞こえてやがったか。そういうところがな、そういうところが全くもって気に喰わねぇ。
だから俺は聞こえないフリをして前だけ見て進む。


背に刺さる奴の不機嫌な視線など、俺の責務に与するところでは無い。

暫くすると、また奴の足音が今度は少し後ろで鳴り始めた。見なくても、その表情が手に取るように解る自分に半ば呆れる。



仕事帰りだ、特に急ぐ事も無い。
奴に合わせる義理は無いが、もう少し、その頼り無い歩みを聞いてやるのも悪くない。

 何一つ変わらないものをいつまでも俺の隣で光らせながら、それでも奴は確かに生きていやがった。それもウザい程に。


「そういやオイラ、」


半歩後ろで機嫌が回復したらしい声が聞こえた。


森を抜けた。
若草色の田園風景が現れて、俺はまた目をしかめた。



「さっきの一撃自信作だったんだ、旦那も見ただろ?オイラの新技」

出た。この馬鹿が


『あぁ…見てたぜ?自分の爆撃の破片を腹で受けてたどこぞの間抜けをな』


折角言わずにおいてやったものを。
さあ、どこまで強がれるかな。


不貞腐れる奴の外套の中は、ため息をつくには最適な光景だった。だから存分に嫌味を込めて言ってやった。


『未熟者が』



その後、アジトに帰り着くまで後ろで喚いてる奴の言い訳など、俺の知ったことでは無い。



また 風が吹いた 。

やはりそれは あたたかいように感じた。







fin.
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