虚像





   お前なんかいらない


  罪な命め

    慎ましく生かされていればいい









激しい吐き気と共にデイダラは目蓋を弛める。


薄灯りがその隙間からぼんやりと入り込んできたので、ゆっくりと目蓋を持ち上げた。

すると、見覚えのある風景と布団の感触に、徐々に意識も覚醒していく。
ここは、 ここは──




「オイラの、 部屋… 」


ここは紛れもなく、この組織にあてがわれた自分の部屋だった。


あれ…いつの間に帰ってきたんだ。
その前に、オイラ殺られたんじゃなかったのか……?



最後の記憶を辿ってみても、あのサソリの毒とやらを喰らわされたあたりまでしか掘り起こせない。
生きてる、よな…オイラ。

自分の右手をぼんやりと眺めながら、掌を握ったり開いたりしてみる。
そして次の瞬間、デイダラは眉間に深い皺を作り俯いた。



「……………、…クソッ、」




耳の中に取り残された言葉が寝覚めと共に甦る。
どいつも こいつも、、、


── "お前は相方、いや 暁失格だ" ──






膝にかかるシーツをきつく握り締めた。
奥歯で悔しさを噛み潰す。


(どうして認めない…!)

(オイラの芸術はこんなに凄いのに…!)




四角い窓の外を見た。

暗い。 今は夜、なのか。


そう思いながら部屋の隅で揺れている蝋燭に視線を移す。
ゆらゆらと定まらないその灯りはまるで、今の心の内が滲んだようでどこか不安を煽った。

すると、扉の向こうに微かな気配を感じ咄嗟に全身が強張る。




 コン、コン と軽めの音が鳴る。


「…入っても?」




聞き覚えのある声にデイダラは緊張を解く。



「いいぞ、うん…」





顔を出したのは先日己を連行した中の一人、鮫面の男だった。



「お加減はいかかですか?」



見た目の威圧感からはかけ離れた物言いに何処と無く親近感は沸くが…デイダラはその青い顔の大男をじろりと見上げる。



「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、我々に敵意はありませんからねぇ…」

「…オイラはアイツに殺されかけたけどな、うん…」


信用ならん、と言いたげにデイダラは幼い顔を歪めてそっぽを向く。



「ああ…、その件では色々あったようですねぇ。…そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は鬼鮫と申します」


「……オイラはどうやってここへ?」


やはり気になるのは倒れたその後の経緯だ。
まさか奴が自分でしておいて…そんな筈は無い。
真剣な眼差しが大男に刺さる。


「あなたの身柄はイタチさんが回収しました」

「──!」



なんで、よりにもよって。


「解毒薬はサソリさんご本人が。…そろそろ効いてきた頃だと思いましてね」

「……どういう事だよ、何でアイツが…」

「どちらもリーダーからの指令ですから」




デイダラは小さくため息をつく。



(どうやら、暁(ここ)からトンズラこくのは無理そうだな)



綺麗に折り畳まれた紙を差し出す鬼鮫から、力無くそれを受け取る。



「疲労回復に良く効くとイタチさんが」





 ああ… なんなんだこの仕打ちは



もう一度蝋燭を見遣ったデイダラは、その虚ろに揺れる炎を眺めながら ようやくこの組織に与する腹を括ることにした。






      




2014.3.13
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