失敗 1
深い霧に囲まれている筈のこの地が、今は爆煙に覆われている。
その中でも逃げ惑う里人の声や、何かが崩れ落ちる雑音があちこちから沸く。
晴れかけた視界から覗く惨状を確認するより早く、サソリの額に青筋が立ち上った。
(あの餓鬼!)
奴の戦術を知っている訳ではなかったが、あの日確かに言ったのだ。
芸術は 爆発だ と。
そこで実際に爆発を目にした訳じゃない。目にはしていないが確信出来る─。
こいつは間違いなく、奴の仕業だ。
「─!お、お前は…その装束は……」
接近を許す程に怒りに囚われていたサソリが、声の主へ怒光を向ける。
そこには驚愕に目を開く一人の巨漢が槍を携え構えていた。
「暁…!」
どうやらこいつが先の討議で張り切っていたあの溝鼠のようだ。
見るからに小汚く欲深そうな髭面を歪めている。
『チィッ……』
小さく舌打ちしたサソリは、瞬く間に男の喉笛を切り裂くとずるり と尾を引き抜いた。
コイツの始末はまぁいいとして、問題はこの先だ。
被害の規模が思ったより大きい。
(さて、どうする…)
優先順位を算段している最中、前方で第二、第三の爆発が巻き起こった。
地響きが更に増している。
少々厄介な事態に陥った現状に、サソリの怒りは沸点に達していた。
弐
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2013.12.