積層 1
一体俺が何をしたというのか。
あの人体実験野郎とやっと縁が切れたと思った矢先にこれだ。
長いこと組んではいたが、アイツと合意出来たのは"永遠論"だけでそれ以外は理解の枠を超えた変質者という認識しか無かった。
だがそれも今や、この現状と較べれば随分とマシだったのではと思えてならない。
サソリは自室に散らばる傀儡の残骸を蹴散らし派手に舌打ちをする。
理解出来ない。 ウザくて堪らない。
気を散らそうと作業台に視線を移すが、その部品のどれをとっても今回の任務が連想され サソリはまたも苛立ち足元の屑籠を蹴り飛ばした。
ガシャリと中身が散らばった。
(あんなクソ餓鬼と俺が)
組織を重んじるサソリも、この時ばかりは暁の二人一組の掟を呪った。
だが、ただひとつ──
あの時から興味の袖を引く言葉が、鼓膜の底で浮き沈みを繰り返し落ち着かない。
──芸術──
あんなちんちくりんな子供の口から、よもやそんな言葉が出てくるとは。
一丁前に目を滾らせ、あまつさえ絶対的自信に満ちている。まるで、折れない芯にアイツ自身を肉付けしたような存在だった。
それが本物か否かは、目を見ればわかる。
サソリは深いため息をついた。
(……何が爆発だ、ふざけやがって)
しかし、大蛇丸のような共通点の有無どころか信じられない言葉を撒き散らすデイダラを、全力でサソリの体は拒絶していた。
やはり殺すしかない。上手くやれる筈がない。
あんな奴の一体何処を評価しているのか。
リーダーのアイツに対する目論みは知らないが、暁の為になるとは思えない。
確かにあの破壊力には目を見張るものがあるが、忍世界はそれが全てじゃない。
そんな思考を遮断するかのように、廊下の奥から一人の気配が近付いてきた。
ヒルコのメンテナンスをするつもりだったサソリは再びその堅重な鎧で身を覆う。
暫くすると、サソリの自室の前で足音が止んだ。
「…オイラだけど、いるか……?」
軽いノック音の後に、まさに今思考の中にいた人物の声が聞こえた。
何故俺の部屋を知っている。…いや、もしかすると順番に当たっているのか。
サソリは静かに目を閉じやり過ごす事にした。
部屋を教える気も関わるつもりもねぇ。さっさと失せろ。
「オイラ考えたんだ……昨日アンタに言われたこと、…うん」
……おい、ちょっと待て。
まさかそんな調子で他の部屋にも当たってきたのか。冗談じゃねえ、後で嫌味を言われるのは俺だろ。
サソリは仕方なく扉の錠を外す。
カチャン と心底嫌な音がした。
すると、そろそろと扉が開き隙間から金色の長い髪がひょっこりと覗く。
くりくりとした青い目がパッと輝くと、そいつは無遠慮に部屋の中へと入り込んできた。
髪が濡れている。
風呂でも入ってきたのか。
ああ…どうでもいいが、鬱陶しい。
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2014.6.6