出会い
薄暗い廊下を 四つの影が進む。
頼りない蝋燭の灯がぼんやりと浮かび上がる壁面に、その影達が連なる。
静寂 というにはあまりにも息の詰まる空気だが、口を開く者は誰一人いない。
唯一聞こえるそれぞれの足音と、物を引き摺るような不快な音だけが奥まで続いている。
暫くして、左方に分かれる通路が見えてきた。
『後は俺がやっておく…』
その異形な身体の持ち主が、薄闇の中に低音を放つ。
「…そうですか、ではお願いします。我々はこれで」
こちらもまた、異形…とまではいかないが 人を逸脱した容姿の男が答えた。
同時に、その隣を歩く人物の黒い瞳が二人を捉え──静かに奥へ続く闇へと消えていった。
「──ッ、」
先程から物言わぬ小さな子供は、消えて尚 不気味な後味を残す廊下の果てを、悔しさが滲む碧眼で睨み付けている。
地を這う男はまた 前を向いてゆっくりと進み出した。
「ご苦労だったな……お前がデイダラか」
殆ど明かりのない陰湿な部屋に入ると、奥に二体の人物らしき影が立っていた。
名を呼ばれたデイダラは、目を凝らしその声の主を見上げた。
どうやら実体では無いらしいその幻影は、怪しげに揺らめきながら己を見下ろしている。
「急な頼みだが、これからお前には 我々"暁"の一員として動いてもらう事になる」
吸い込まれそうな波紋状の眼が無感情のままに子供を射抜く。
「誰だよ、アンタ…」
眉間に皺を寄せ威嚇してみせるが、どことなく覇気が力無い。
「この組織のリーダー ペインだ。お前には早速、やってもらいたい仕事がある」
「何でオイラが…」
不満と疑問を最大限に放つデイダラは、目の前の男に怒りの眼差しをぶつける。
「アイツ等からも聞いただろうが、お前の能力は役に立つ。だから選抜したまでだ。それに…ここに来た事実が、お前の答えだろう」
「──クッ…!」
唇を噛み締め、下を向く子供をサソリは視界の端に映す。
あれ程威勢が良く喧しかった口は、今は一文字に引き結ばれている。
抵抗が無駄と悟ったのか、イタチと戦り合った直後から急に大人しくなったようだ。
「まぁそう恐い顔をするな…ここにいればお前にとっても利点が多いだろう。…もう、縛られた依頼を受ける必要も無い」
「──!」
伏せられた蒼い眼に光が戻る。
未だ目付きこそ悪いが、その中に灯る色は確かにギラギラとしていた。
「今は詳しい説明をしている時間は無い。質問なら隣にいるサソリに聞け…暁は原則、二人一組で行動する。…お前の相方だ」
「っ、二人一組!?」
悪の組織ともあろうものが、ペアとなって群れているのか。
デイダラは驚愕に声を荒げ、抗議の意を唱える。
「そんなもん、オイラには必要ねぇよ…うん!一人で充分だ!」
禍々しい殺気を放つサソリの視線を背に受けながら、デイダラは尚もペインに喰ってかかる。
「これは決定事項だ。組織の掟には従ってもらう」
「──な、」
「ペイン…そろそろ──」
先程から静かに隣に佇む長身の影が口を開いた。
こちらはどうやら女のようだ。
「ではここまでだ。サソリ、任務内容は先刻伝えた通り…次からはデイダラと行動しろ…報告は逐一だ」
そう言うと、怪しげな幻影はすぐに姿を掻き消した。
『チィッ……』
明らかに苛立ちの舌打ちを漏らしたサソリは、また出口に向かってズルズルと動き出した。
その背中を、デイダラは不服感いっぱいに睨み付ける。
『…さっさと来い、餓鬼…』
振り返った瞳は、恐ろしく温度の無いものだった。
「ッ─!!オイラはガキじゃねえ!」
入口こそ小さかったが、どうやらこのアジトはかなりの広さがあるようだ。
『……此処がてめぇの部屋だ。アジト内は勝手にすればいいが…あまりうろちょろするなよ…』
「……」
それだけ言うと、男はまるで興味の無い様子でその場を離れた。
また 奥へ続く闇へと、巨体を引き摺る不快音が木霊する。
ふいに止んだと思ったら、その顔がゆっくりと背後に向けられ──デイダラの幼い瞳を捉えた。
『最初に言っておく。 俺は─待つのも待たせるのも大嫌いだ……命が惜しけりゃ 肝に命じておけよ』
投げて寄越された眼差しは 放たれた言葉より遥かに鋭く、深い冷酷と非情の念に満ち満ちていた───。
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2013.6.7