今正に 二つの命を消し合う旋律が、土砂降りの不協和音に溶け込んでいる。


「ハァッ─、ハァッ─!、さぁその命…今此処で償ってもらう─!」


─蒸遁 炎滝網縛!


(──!)


予測不能な攻撃範囲に角都は咄嗟に勘だけで避ける。


「んぐ、…クッ!」

背中の面が、また一つ潰された。
残る心臓は、己のを合わせて後三つ…


片膝をついたままの角都は 痛みに奥歯を噛み締めながら、残った風遁と火遁での勝算を導き始める。


「何故だ……」


角都は、声の主を見た。


「何故! お前は"暁"に入った……!何故だ──! そうでなくば……ッ」



 こんな事には


  ならなかったのに



そう、聞こえた気がした。


「フン…貴様に言う必要など無いわ」


ぴしゃりと蓋をした。
言葉など、何の意味も無い


─火遁 頭刻苦!



単体で動く赤い面の触塊から吐き出された火の玉が、次の瞬間 炎の津波となり足元を覆い尽くす。風の性質を加えた火の海から、最早逃げる術は無い。


凄まじい熱風を身体に受け、永良は即座に印を結ぶ。


─水遁 滝壺砲丸!



発動した巨大な水の大砲が、焼け野原に放たれる。

巻き起こる水蒸気爆発の衝撃波が、互いの頬を振動させた。


(──!?)


突如、上空から永良の術が。


辺り一帯が水蒸気の湯気に包まれた状況で、奴の蒸遁を見極めることは不可能だった。


「くっ──!お のれ…、」


遂に火の心臓をも潰され、角都は経絡系の触手を切り離した。
痛みに耐えつつ、しっかりと両足で地を踏みしめる。


「貴様のその術…相変わらず厄介だな」

水遁から派生した奴オリジナルの蒸遁は、基の水遁より威力が強く対抗出来る手段が無い。
一時的に風遁で押し返すか、回避する他ないのだ。


だが…


「ハァ、  ハァ…ッ、 」



どうやら、ギリギリなのはお互い様のようだ。


永良が力無くしゃがみ込み、地に手をついた。


「─!?…な──」





  (樹命吸魂─!!)




一瞬、夥(おびただ)しい光に目が眩んだ直後、永良の身体が淡い光に包まれた。

地についた手から、どんどんとエネルギーを吸い上げている。

カサカサ、と 真横から音がして視線をやると、枯れた木の葉が一斉に散り落ちる瞬間だった。

色を無くし乾いた葉は 雨に濡れた地面に向かってその命を終える。

角都は、それを静かに緑眼に映してから永良を見た。



顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる相手は 先刻の疲労感など微塵も感じさせない程に、生命力が漲(みなぎ)っていた。



「さぁ角都よ…お前にとって本当に厄介なのは…これからだ」



その事実に 角都はその場で立ち尽くした──









────────────




容赦無く襲い来る術をかろうじて回避する。

またも前方からの挟み撃ちで行く手を阻まれる。

─風遁 圧害!

  (ゴオォォ…)


天災さながらの風圧で永良の攻撃を弾き返す。


そんなことを随分と繰り返しながら、角都は模索しつつ分身の印を組む。


(流石にこの国では、コイツに地の利がありすぎる…)

(残りの心臓も含め、己のチャクラにも限界があるしな)


リスク分散と見せかけ、角都は三方向に分かれ迎撃する態勢を整えた。


「分かれたところで無駄だ、俺の術からは逃げられまい…」

三体同時に蒸遁を発動させ、またその補給でエネルギーを吸い上げる永良。
角都が六体に分かれる

永良もそれに応え術の数を増やしていく


「どれだけ分散しようとも、お前のチャクラが消耗するだけだ。俺はいくらでも補充が効くからな…」

分身を増やし、徐々に戦闘範囲を広めながら角都はとにかく走った。

如実に判る己のチャクラ消耗との闘いだ。

最早、最後の風遁の発動さえも困難に陥った状況下、一旦自身へ戻そうとした刹那──


─土遁 虎檻門!


威力を増した猛虎の檻に、風の心臓体はあっけなく押し潰された。




「………」


ここまでの危機など、里抜け以来記憶に無い。

やはり、己が認めた真の武士に見誤りは無かった。






「さあ、お前の心臓も尽きた。…後はその息の根を止めるだけだ」


チャクラも使い果たし、角都はその場に静かに佇む。

漸く勝ち掴んだこの瞬間を、永良は目蓋の裏に映し目を開く。

幼い少女と その兄が幻影となって見えた気がした




「お前の選んだ道は…間違いだ角都よ」



誰よりも 解っていると思っていた

誰よりも お前の自由を望んでいた




「せめて 俺の手で葬ってやる 」





無情に打ち付ける雨は、全てを見届け 静かに二人を終幕へと導いて行く


再び鬼刀を抜いたその刄に、永良は渾身のチャクラを流し始める。

奴の奥義─ 『鬼流し』が発動する。

蒸遁と鬼刀の合技となるこの術は、捉えた獲物を決して逃がさないばかりか、骨をも融かす灼熱の刄により 逃れる術は皆無となる。

右手を高らかに掲げ 永良は鬼刀を角都へ翳す。

更にチャクラを練り上げる為に、しゃがんだ地面に左手をつく。


「──!?」



違和感が驚愕へと直結するのに さほど時間は要さなかった。

永良は即座に顔を上げ思わず立ち上がる。
物も言わぬ角都を通り越し、可視範囲いっぱいに広がる荒野をぐるりと見渡した。

停止した脳に流れ込む映像は、無惨に渇れ果てた 己の命を救った国の、哀れな姿だった。




「全て 貴様がやったことだ」





ただ その事実に、永良は愕然と立ち尽くす。
今にして漸く、角都の戦法に気付かされるとは──


吸い上げたエネルギーは、『鬼流し』の発動により体内で練り上げたチャクラに費やし 果てた。
角都は分身により術の頻度を上げさせ、更に広範囲に渡りエネルギーを乱吸させることで全てを吸い付くさせ 秘術そのものを滅する策に転じた。



チャクラの切れた二人の武士が 互いに睨み合う


─ピシャッ!
 ゴゴォォン─…!

落ちた稲妻と同時に武士は最後の力を込め動く──



「角都──!!!」

「永良…!」



轟く天を裂いた鬼刀の太刀筋に

紅い血飛沫が弧を描く






永き刻をかけた愛憎の絆に







たった今








終幕のエピローグが鳴り響いた───








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2013.2.5
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