参




 「俺と奴は滝隠れ時代、数々の任務に共に当たっていた。」


「あ?そりゃ戦友だったってさっきの話か。」


先程のアジトを離れ目的の場所へ歩き出して暫くすると、珍しく角都の方から口を開いて話をきり出してきた。正直 飛段も二人の関係には興味があったから聞くことにした。


「どんな理不尽な任務だろうと、里の命令ならばと苦汁を飲んで全うしてきた…。それが忍の宿命だと甘受していたからだ。」


そこには当時の揺るぎない信念と憎悪が滲み出ていた。


「だがある時、俺達は任務に失敗した。そして里の命令を遂行出来なかったとして汚名を着せられ酷い仕打ちを受け続けた。」


まるで昔話をしているような穏やかな口調ではあるが、その声は悲哀に満ちているように思えた。

風に乗って雨が頬を叩く。


「俺は里の禁術を奪い、当時の上役共を皆殺しにした。里抜けも覚悟の上だった。」

飛段は口を半開きにしながら黙って聞いている。 こんな時まで馬鹿面だ。



「その時、唯一俺を引き留めたのが奴だ。」
―なるほど。
角都が躊躇っているのはその為か。こいつにも少なからず人の心があったんだな。
などと楽観的な思考を巡らす。



「だが俺は奴の制止を振り切り里を出た。もう、そこにいる理由が無くなったからだ。」


―それから暁に入ったのか…。


少し、雲の切れ間から光が射したがそれも束の間のことだった。


飛段が入るまで相方殺しを続けていたのも、裏切られた故に崩れ落ちた忠誠心と不信感が拭い去れず、そんな過去があった為なのだろう、と何故か無性に納得できてしまった。


「…だが、俺の里抜け後に奴も抜けたと聞いていた。どんな経緯でそうなったのかは知らない。その後の奴の消息も耳にしたことはなかった―。それが、こんな形で再会することになるとはな…。」


そう言って袖口から新しい手配書を取り出した。


温厚な面持ちの勇ましい忍だ。
人情味に溢れ正義感の強そうな目をしている。
里を抜け、高額の償金首になるような人物には到底見えない。


先程の角都の言葉を思い出す。

長い歳月が 彼を変えてしまったのだろうか。

「だが、現在俺達の敵であることには変わりない。」


「まぁ、そうだけどよ。」


「どんな術を仕掛けてくるかはわからんが、気を抜くな。奴は強い。甘く見ていると…死ぬぞ。」


威圧感を含み、角都はそう相方に忠告した。

「だぁから!!それを俺に言うかっての!!殺せるもんなら殺してみろってんだ。ったくよ、」


大いに口をへの字に曲げて不満面を剥き出しにした。



まだ 雨が止む気配は無い。


だが、珍しく語る角都の過去に耳を傾けていたら 思いの外目的地に近づいていたようだ。

全体の三分の二まで辿り着いた。


「ここで少し休息も兼ねて作戦を立てる。そこに座れ。」





一際大きな広葉樹の下は、見事に雨が防がれていて地面が乾いている。移動した二人は腰を下ろし必要な補給を行なった。



「奴は俺達の動きを読んでいる。ここまで来ていることも予想している筈だ。」


角都は未だ止まぬ空を仰ぎながら明瞭に言葉を発した。

「既に 奴のテリトリーに入っている可能性も十分にある。いつ何処から仕掛けてくるかわからんからな…もう行くぞ。」

「え。マジかよ!!今座ったばっかじゃねぇか!少しここで一眠りしてぇんだけど。」肘を付き 今にも横になろうとしている飛段を無視して、角都はまた雨の中へ足を踏み出した―途端


「もうお出ましか…。」



ふわりと甘い香りが漂う。

辺りの景色が一瞬止まる。無重力に包み込まれたような空気が漂う。夢の中にいるようだ。


何処からともなく金色の蝶が舞い現る。


それらは金粉を散らしながらまるで二人を誘っているようだ。



「おい飛段、何をしている。さっさと来んか、」



「? なんだよ、この蝶は―」



「奴だ。ご丁寧に出迎えまで寄越してきたようだ。全く…ますます気に食わんな…。」



流石に飛段も神妙な面持ちになり、大鎌を担ぎ直して立ち上がる。



日が落ちる雨の林道の中
金粉を纏う蝶に導かれるがまま、二人は待ち受ける闇の奥へと足を進めた。






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