虚像 2
《どういう事だ、サソリ…》
薄暗い部屋の中、澄んだ低音が響いた。
静かな空間にはしかし、息の詰まる緊張感が走り抜ける。
『もう俺には相方なんて面倒なモンは必要無い…』
対して怒りを露に尾を揺らすサソリは、鉛のように重い覇気をぶつける。
『あんなのが此所にいたら数日で内部壊死だ……まぁ、今頃はアイツ自身が死の淵だろうがな』
次いでくつくつと喉を鳴らしてはいるが、やはりそのオーラは尋常じゃなく黒く鈍い。
《何があったのかは知らんが引き入れたばかりの材だ。今すぐ連れ戻せ》
『断る』
日頃から命には忠実な姿勢を貫くサソリであるが故に、今回ばかりはペインも顔をしかめる。
《お前の個人的意見を聞き入れるつもりは無い。──命令だ、デイダラを連れ戻せ》
『……………、チィッ』
暫くの沈黙後、サソリは苛立たし気に言葉を発した。
『連れ戻すのはいいが…着いた頃にはとっくにお陀仏だぜ』
ズルズルと背を向け出口を目指す。
その背中を輪廻の瞳がしかと見据える。
《ならばデイダラの身柄はこっちで何とかする。お前は解毒作業を始めろ…戦力の潰し合いは認めん》
…全く、コイツは事の重大性を理解しているのか
アイツがいることでこの組織にもたらす事象は 危機と敗北だけだというのに。
(人事だと思いやがって‥‥)
最後にもう一度聞こえるように舌打ちをし、サソリはその場を後にした。
どうやらまた少し眠ったようで、次に見た景色は 薄日が射し込んで明るくなった自分の部屋だった。
暫くぼうっとして、四角く切り取られた朝日が膝の辺りに落ちているのを眺める。
それから周りに目を向けると、埃の被った机や木箱が乱雑に置いてあるままの殺風景な室内が見えた。
夢うつつにも、鼓膜に焼き付いた言葉をずっと考えていた。
コンビとは何か
組織とは何なのか
今まで自分が生きてきた世界とはあまりにも違う気がした。
(もうだいぶ、動けるな…)
五感も正常に機能し、チャクラも回復している事を確認するとデイダラは身支度を整えようと廊下に出た。通気性の悪いそこは、夏だというのにひんやりと薄気味悪い湿気を帯びている。
とにかく先に身体の汚れを落としたい。
腹ごしらえはそれからだ。
いまいち各所の位置感がわからないデイダラは、水場に辿り着くまでアジトの中を徘徊することになった。
仕方無い。
終わったら、アイツの部屋を探すか。
2014.3.14