──ドン
──ドン ─ドン
腹の底をゆするような振動が五感を支配した
その時ばかりは 蒸し返るような暑さもこの尻の鈍痛も 少しだけ遠退いてくれる気がした
「おい見ろよ旦那!あれッ!」
『……あぁ』
そうやって予想通りにはずんだ声でペダルを踏み込む背中が 急に力強く動き出す
二人分の重みを請け負った息づかいは破裂寸前なのに 奴の関心はもう遥か上空にあるらしかった
『おい、急に立ち上がるな』
俺は規則的なゆるい向かい風を額に受けながら奴の後ろ姿をぼんやり眺める
見飽きたはずのそれが日に日にたくましくなっていくように感じるのは気のせいか
その時 汗の匂いとともにふわ と金が俺の鼻のてっぺんを掠めていった
(夏、だな)
堤防の砂利道がガタガタと尻に響いてやっぱり痛い
また 左から鈍い音とともに鮮やかな花が河面に咲いた
シュワワ……と残光の余韻が俺たちの刻を包み そして止める
その表情までは見えないが 心情が手に取るようにわかる俺はきっともう重症なんだろう
後ろ手で荷台をつかみ 重心を変えて空を仰いだ
朱と藍の輪廻が儚く強く折り合い咲く
「くうぅぅッ!今日は遅くまでッ、旦那の作業手伝わされてッ、よかったぜっ!はぁっ、オイラの芸術はッ、やっぱこれだぞ!うんッ……!!」
今度は一際 大きな光がさんざめいた
『……ったく』
(この鈍感粘土が)
相変わらずのぬるい風が 俺の前髪を誘い夜空へといざなう
やっぱりアレだな、つまらない
そんな毒を口の中で吐きながら 俺たちはいつまでも同じ耀きを瞳に映していた
長い長い 一本道
今年も夏が
更けていく──
END
20150823