現実
鋭い殺気を間一髪 半ば本能でかわしたと思ったら、すぐ真後ろで「ぐアッ!」と悲鳴が上がる。
咄嗟に振り返ると額に雲のマークを刻んだ忍二人が、今にも我が身を襲撃せんと接触寸前の状態で地面へと落ちて行く所であった。
助かったと息ついた直後、それが己にも放たれていた事実にデイダラは大いに憤慨した。
「おい…!何しやがんだオッサン!」
地上ではあの胡散臭い中年男がどす黒い殺気を放ちこちらを睨み付けている。
何か言いたげに光る冷徹な目が、ギンと突き刺さる。
デイダラは笑う。
「へっ、オイラにかかればチョロいもんだろ、うん─!」
まるでこの惨状を誇示するかのようにデイダラは外套をはためかせる。
突如、サソリの下顎が外れるように開いた次の瞬間、カカカッ と再び何かが放たれた。
「くっ!」
緊急降下で回避したデイダラを次々とヒルコの仕込が襲う。
(何だアイツ、身体中に仕掛けが…まさか)
(…奴等と共に死ね)
ただでさえ嫌いな子供のお守りを押し付けられた挙句、任務までぶっ潰されたサソリに最早微塵も躊躇は無い。
今するべきはさっさと片付け此処を去る事だけだ。
ちょこまかと飛び回る相手に舌打ちしつつ、同時にこの場を去らんとする数体のチャクラを捕らえて追撃、抹殺した。
漸くサソリの戦術を目にしたデイダラだが、その的確な攻撃に内心冷や汗をかいた。
(つか野郎、本気で殺ってやがる…!)
理由は何となく解っていたが、我意に従っただけのこと。詫びる義理など無い。
相手が自分を始末するつもりなら仕方無い、こちらも反撃と行くか。
腰から提げたポーチへと両手を突っ込み掌で芸術を拵える。
どうせ強制連行された身だ、この際トンズラこいてやる。
再び連れ戻しに来るなんて面倒な事、人を駒としか見てなさそうなリーダーはしないだろう。
「──喝ッ!」
チャクラを流し印を組む。
しかし、爆ぜるより先に視界が霞んだ。
おかしい と思った次には、膝が崩おれる。
「──っ!?」
直ぐに立ち上がろうと試みるが、今度は目眩がそれを阻んだ。
『…餓鬼は意気がっても所詮、餓鬼だ』
怒気をだだ漏らすサソリが尾を揺らし低く呟く。
チャクラコントロールの乱れたデイダラはみるみる落下し、遂に制御不能となった鳥ごとドシャリと墜落した。
「…うっ、さっきの掠ってたか…うん」
這いつくばるように鳥の背から降りると、デイダラはごそごそと外套を漁り何かを服用しようとした。
どうやら現症状を麻酔か何かと勘違いをしているようだ。
『それは毒だ』
その言葉にデイダラはぴくりと反応する。
『即効性のな』
漸く真正面で視線がかち合う。
「……オイラの芸術に恐れを成して殺すってのか」
酷く不調な子供に向けサソリは苛立ちのため息をついた。
『……。餓鬼は嫌いだが、てめぇみてえなタイプが一番嫌いだ』
的外れな過信事ばかり口走る子供に心底嫌悪し、サソリは背を向け歩きだす。
朦朧とする意識に飲まれ、デイダラは遂にうつ伏せのまま動けなくなった。
『お前は相方──いや、暁失格だ』
遠くで聞こえた声を最後に、デイダラの意識はそこでぷつりと途絶えた。
強く握り締めた拳から、潰れた粘土がぽとりと転がった。
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2014.2.20