出初め






 ─翌朝

指定しておいた時間と場所に佇む小さな影。

ズルズルと巨体を引きずりながらサソリはその横を通り過ぎる。


「!……」


無言のまま己を越してアジトの出口へ向かう様子に、デイダラは一瞬呆けてから慌ててその堅そうな背中に続いた。














「なぁ、今何処に向かってんだ?」


真夏の強い日射しと折り重なる蝉の音が辺りを覆い尽くす。

「オイラは何をすりゃいいんだ、うん…?」



『……』



先程からいくら言葉を投げ掛けても、だんまりのまま反応が無い。
それにしてもコイツの体は一体どうなっているのだろうか。

昨日はそれどころじゃなかったが、改めてまじまじ見ると気になる部分が有りすぎる。


「なぁって!聞こえてン──」
『…うるせえ』


やっと音が返ってきたと思ったら酷く苛立ちを含んだ単語だけの言い捨て。
着慣れない外套の重みが更に額に汗を滲ませた。


「なんだよ…!暁(ここ)は二人一組だんだろ!?オイラにだって、─うわっ!!!」


あまりに突然の出来事にデイダラは恐る恐る目を開けると、そこには自分の直ぐ真下の地面にめり込んだ鉄製の尾があった。

しかもそいつは奴の臀部らしき箇所から伸びている。


「──、なっ…!」


ズルリ と嫌な音を立てて引き抜かれたそれは、ぱらぱらと土を落としながら幼子の目の前に突き付けられた。




『……いいか…、二人一組以前に俺は餓鬼が嫌いだ……。組織の規定に背く気はねぇが、ギャーギャー喚いて足手まといになるようなら……俺が即刻消してやる』



ぽたり、とその尾の尖端から何かが滴り落ちた。


それが何なのか確認する事よりも デイダラは向けられた殺気を受け止め返す事に全力を投じる。



するとサソリは、フン と鼻を鳴らしながら鋭利な尾を遠ざけ、また前を向いてゆっくりと進み出した。


『…俺が指示を出すまで…てめぇは大人しくしてろ』



こりゃあ怒らせたら面倒くさい奴に違いない。
クソ、馬鹿にしやがって、

(だからオイラはガキじゃねぇよ!)


どうやら己を子供と見くびっている様子のサソリの舌を巻かせる為、デイダラは内心闘志に火をつけ両の手で粘土を喰らった。


(アイツにオイラの実力を見せてやる─うん…!)





目前に迫っているであろう初の舞台に、デイダラは密かに胸を高鳴らせ奴の背後で準備を進める。



熱と湿気で蒸し返す夏空が、二人の歩く道の果てをジリジリと照らしつけた。







      




2013.7.26
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