弐




 新緑の季節という時期ではないが鬱蒼と生い茂る草原が目の前に広がっている。

風が吹く度、稲穂の波のようにざわざわと音を立てながら揺れる。

此処へ来た自分達には場違いな程穏やかな景色だ。普段は力を持たない小国も、そんな所が案外良いのではないかと大鎌を担ぎ直しながら男は思った。

「行くぞ。」

情緒の欠片もない相方は、そんな景色には目もくれず何処か別の世界を見ているようだ。

思えば今回の償金首を新しいリストで見つけた時から様子がおかしい。執拗に追っているのはその償金額の為かと思っていたが、どうやら他にも理由がありそうだ。

「ちょ、待てよ角都…!!」

飛段は慌てて後を追う。
普段から頭巾とマスクのせいで分かりにくい表情だが、今日は特に曇りを感じた。葛藤―そんな二文字が顔に貼り付いている。


「なぁ、その永良って奴、やっぱお前の知り合いなのかよ。」

唐突に聞いたようで、実は本人は気を遣っている。
一応、空気は読めるようだ。

「…。」
何やら考えているようだが飛段は言葉を続ける。
「なんか最近お前変だし、あーそれにほら、そいつ元滝の忍だろ?」

ポリポリと後頭部を掻きながら相方の重い背中に話し掛ける。


「…今回の償金首は、昔 戦友だった男だ。」

飛段は驚きで目を見開いた。やっと口を開いたからではない。
「角都、お前に友達なんていたのかよ…。」

何たる無礼な発言だ。普通ならここで二人旅は終わる筈だが、生憎現在の連れはそれが叶わない。


ギロリと睨んでやったが、今はこいつの低レベルな挑発に乗れる気分ではないのでまた前を向いて歩きだす。

「それで?殺すのを躊躇してやがんのか?」

もうここら辺までくると気遣いよりも単純に疑問を投げつけてくる。やれやれだ。

「そうではない。ただ…」角都は草を掻き別ける手は休めずに続けた。

「ただ…?」

同じく飛段も言葉を返す。


「何故、生きているのかが謎だ。奴は、俺よりも歳が上だった。」




そうだ―。



飛段は改めて角都を見た。相方の不老不死は禁術の為だ。

ではその男は…??
手配書を見る限り角都よりは歳をとっているようだが、明らかに実年齢と矛盾している。


何故だ…。
角都と同様、五つの心臓を持ち合わせているのだろうか?
まさか、角都の里抜け後にそれは有り得ない。

では自分と同じ死神なのだろうか?
いや、邪神教徒の雰囲気は微塵も感じない。どちらかというと無神論者臭い。腹が立つ。

その他不老不死になる可能性はいくつか知っているので、今は考えが纏まらない。 それは角都も同じようだ。


暫くして、脳内に聞き慣れた男の声が流れてきた。

「こんな時に御呼びだしかよ。」


草原のど真ん中にいる二人は仕方なくその場に腰を下ろした。






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