伍



 「わりーわりー!出るタイミング逃しちまってよォ!」


満身創痍のデイダラの前には、大鎌を担いだ飛段が立ち塞がる。


「もっと早く手ぇ貸しやがれ、うん…」

フラフラと鳥から降り 途端に尻餅をつくデイダラ。

「んな事言ったってよォ!そりゃオメーは得意かもしんねぇけど、俺ァ長時間地面に潜ってんのは慣れてねぇんだよ、いって!耳に砂利が入った!」


戦場に立っている自覚があるのかないのか 飛段は小指を耳に突っ込みながら首をポキポキと鳴らしている。



「……お前……、よくも邪魔してくれたね…」


先程から大人しくなったと思っていた蕾が、怒りを露にユルリと立ち上がる。
その左腕はいつの間にか肘下から喪失しており、ポタポタと切断面から鮮血を滴らせている。

「……ぁん?るせーなァ!こっちは耳ん中に石やら砂やら詰まって大変なんだよ!」
飛段はかったるそうに蕾に向き直り 尚も喧しく不快感を訴えている。
鞭を振るう腕ごと切り落とされた蕾は、狂気に満ちた眼光で目の前のじゃじゃ馬を睨み付ける。
そしてふと飛段の首飾りが目に止まる──


「……!!、…そのシンボルは───」

急に空気が凍りついた

「あ?何だよ……」

あからさまに血相を変えた蕾は血走った目を見開き飛段に言葉を投げた。


「その首飾り……、あんたもしかして…卍忍の子孫なのかい─!?」

「………、おめぇ…湯の抜け忍かよ」

蕾の腹部の額当てを見て、今まで呆けていた飛段の顔付きが変わった。


「邪神教の元祖を知ってるって事ァ…鎮圧団体の一味だな、…あるいはそれに繋がりのある里影直属の家臣か」


どうやら元 湯忍の因縁らしき繋がりがここで明らかになったようだ。
デイダラはしばらく二人のやりとりを見届けることにした。




「……うちの亭主は、反邪神団体の総長でもあり、里影様直轄の特攻部隊長だった……」

静かな声が 怒りに震えている
その目は、遥か過去を悔いるように苦しみに染まっていた


「優秀な忍だった…。アタシにはそれが何よりの誇りだった─。そして──!!あの日お前達邪神教徒に殺された…!!儀式だと言って、上役達の面前で…!!」


突如、蕾は俯き切断された左腕に力を入れ、全身をガクガクと震わせ始めた。




─ズル……、ゾゾゾ…




薄気味悪い音と共に、その切り口からは数十本の束になった蔓のような物体がゾロゾロと生えてきた。
各々が意思あるもののようにうねうねと蠢く様は何とも不気味だ。


飛段はそんな事態にもつまらなさそうに頭を掻きながら口をへの字に曲げている。

「…そんな昔の話されてもなァ…!俺下っぱだったし」


そして──


「これは神がくれた最期のチャンスだ…!今こそ積年の怨み晴らしてくれるわ──!亭主の仇……!!」


身の丈よりも成長させた蔓束を猛蛇の如くうねらせ、蕾は怒りのままに突進する

もう 復讐に囚われた者を、救う手立てなど存在しない──


いつの間にか完成していた円陣の中へ移動する飛段


その身体が 呪われた黒き悪魔の如く邪悪なオーラへと変貌する



「神はこの世に一人だけだ!……さぁ悦べ─!最高の痛みがてめぇを邪神様の元へと連れてってくれるぜェェ─!!」



─汝、隣人を殺戮せよ


その教えの基に
今まで全てを捧げ 欠かす事無く神言を遂行してきたのだ

飛段は己が心臓に鉄槌を穿つ

浴びる返り血と壮絶な痛みが 脳を強烈に揺らしアドレナリンが大噴出する


「ぅ…ぁあ……、き、気持ちイイ……」

「ぐっ…、ふっ─!」

あぁ、この 命事切れる寸前の残り火が堪らない



地面に伏す蕾の下からは、大量の血液が雨によって流され 未だ小さな痙攣を繰り返すその横で、飛段は天を仰ぎ快感に酔い痺れている。


「あぁぁ…邪神様ァ…、見てくれたかァ?」

「見てやったからさっさと戻れよ、うん。ったくいつまでやってんだ」

よく解らぬ因縁の決着を見届けたデイダラは、力無く狂人的な信者の元へと歩み寄る。


「ぁあ!?何言ってんだ、殺った後にはアレやんなきゃなんねーんだ!邪魔すんじゃねぇよ」


あぁもうウザイ…

デイダラは二度目のため息をついて印を組む。

「んな事は本体に戻ってからやりゃいいだろうが!とにかく向こうも片付いたみてぇだ、……お、なかなかオイラの芸術決まってんじゃねぇか…作戦は成功だな、うん」


そう言い 情報を蓄えて納得するデイダラに続いて、飛段も印を組み影分身の術を解くと本体へと戻っていった。
遠距離タイプは近距離タイプに弱い。同じくその逆も。
今回の戦闘は、予め敵に情報が漏れた状態での対戦であった為 互いの分身を相手に付けて反撃の手助けに利用した。


即席の作戦だったが上手くいったようだ。

─サソリの旦那と角都はどうなったのか



悠長に祈りを捧げ始めた飛段を無視して、デイダラはゆっくりと二人の元へと足を進めた。




 血濡れの雨が止む気配は

   まだ無い──









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2012.10.31
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