『これは…』
敵アジトの入口でサソリは声を漏らした。月明かりが二人と本を照らしている。
「どうした、サソリの旦那。うん?」
隣で解読作業を眺めていたデイダラは、ただならぬサソリの空気に緊張を覚えた。
しかしそれ以降は口を閉ざしたまま、視線だけを何度も巻物へと向ける。途中、確認の為かちらりと本にも視線を送っている。
「何か分かったのかい?」
尚も返事はない。
またか―デイダラは出来うる限りの不満顔を貼りつけた。こうなると自分はいつも蚊帳の外だ。もういい、寝てしまおう。解読できた頃に起きればいい。
岩壁に背を預け目を瞑った時、サソリの独り言が聞こえた。
『永良…そうか、こいつの名前だったのか…』
「うん?ながら…?」
漸く静かになったと思ったデイダラが意味あり気にその名を口にした。
「ながらって、滝隠れの忍の?」
サソリは瞬間、驚愕のあまり振り返った。
『何故それを知ってる……』真上にある月のせいで顔に影がかかっているが、驚きと疑問が貼り付けられているのは分かった。
「何でって…飛段がぼやいてたぜ?ながらとかいう滝の抜け忍にとんでもない額の賞金がかかってんだがなかなか捕まらないってな、うん。」
サソリは珍しくデイダラの話に耳を傾ける。
「だが漸く潜伏先の場所を掴んだらしく、これから角都と暫く賞金稼ぎに付き合わされるっつって草隠れに向かったぜ…うん。」
そういうことか。
サソリはもう一度巻物に視線を移した。
しかし未だ残された疑問はある。
『…デイダラ。今回の任務内容は何だ。』
唐突に質問を投げる。
「は?何だよいきなり…。今回の任務は 偽暁の抹消だろ?オイラ達はまだ公には知られていないが、下手に名前を使われると今後の任務に支障をきたすから…じゃなかったか?うん。」
デイダラはリーダーからの補足まで付け足して説明した。
確かにそうだ。暁を名乗る輩が邪魔なので排除するという内容だった。
少しは楽しめそうな任務だと期待していたが見事に裏切られたが。
恐らくデイダラと殺り合った奴等もカス以下だろう。 「おい旦那、一体どうした。ついにボケが始まったの…おっと!」
言い終わらぬうちにサソリの鉄拳ならぬ鉄尾が飛んできた。
危ねぇ…アジトの前にもう一体 死体が増えるところだった。『…チィ。楽に死なせてやったものを…。俺が中の奴等を殺った時に一人が死に際にその名を口にした。』
サソリは記憶を辿るようにゆっくりと語り出す。