いつか貴方を私のものに

その瞬間、影を被ってたその姿がようやくハッキリと見えてきた。

アルベルト・ハインリヒ。
そう呼ばれた男はポーカーフェイスを崩さず冷たく言った。



「よぉ、ブラック・ゴーストの手下のお二人さんよ。幼気な少女を誘拐して改造を目論むなんざ感心しないな。」



ブラック・ゴースト…!?
私は目を見開いた。

表沙汰にはなってないものの、その存在自体は耳にしたことがある。
この世界の何処かにサイボーグ開発研究に勤しむ研究者達が、ブラック・ゴーストと呼ばれる親玉の手の元、生身の人間を誘拐してサイボーグに改造してるのだとか。
サイボーグとして改造された人間の殆どはブラック・ゴーストに悪用されるが、そうでない者が9人いるという。
その9人こそが、世の中を脅かすサイボーグ達やブラック・ゴーストを阻止する為に作られたゼロゼロナンバーサイボーグ。

今、目の前にいる彼、004もゼロゼロナンバーサイボーグの一人。
ブラック・ゴーストの元で戦うことを拒み、誰がために戦うことを選んだ者の一人だ。

そんな004を見て、後部座席に座ってる男は銃口を向けて叫んだ。



「くそぅ…!我々の計画を邪魔する気か!!」



言って銃弾を立て続けに放つ。
だがサイボーグである彼に、普通の銃弾は効かない。
当たった銃弾は全て跳ね返り、彼には傷一つ付かず銃弾はボンネットに転がり落ちた。
効かないとわかっていても男はトリガーを引くが、既に弾切れのようで何度引いてもカチカチと乾いた音しか出なくなっていた。




「ち、ちくしょう…!振り落とせ……!!」



後部座席の男に余裕のない声色で命じられて、慌ててアクセルを踏む運転席の男。
九十九折に進むように敢えて不安定な運転をして004を振り落とそうと試みるが、彼が体勢を崩すことはない。
それどころかそんな荒い運転をしたのが運の尽き、車は電柱にフロントを強打してぐしゃぐしゃ。
運転席に座ってた男はもちろん死亡。
後部座席に座ってた男は一命を取り留めたものの、ドアを開けてフラフラと外に出た瞬間目の前に五つの銃口を突き付けられて立ち止まった。



「女の子は家に返すぜ。お前さんはここで最期だ。」



そう言う004の腕には私が抱かれていた。
私は恐怖で肩を震わせ、004にしがみ付く。

男は薄く笑って言った。



「ふ、ふん…、仮にも正義のヒーローが人を殺して許されると思ってるのか?」



すると004は不敵に微笑みながら、しかしシビアな眼差しで男を見下ろして言った。



「お生憎様、俺はそこまで優しくないんでね。」

「う、撃つのか…?撃てるものなら撃ってみろ…!」



そう言ってお互い睨み合う。
沈黙の続く数秒間。
すると、004は右手を降ろした。



「どうした!?撃たないのか!?正義の名を自ら汚すことに怖気づいたか…!?」

「言ったろう。俺は優しくないってな。」



その瞬間、遠くからサイレンの音が聞こえた。
パトカーだ。



「!?」



男は目を見開いた。

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