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人に甘えるって行為は、決して恥ずかしいことでは無いと思う。
子供が大人に甘えるように、成人男性だって甘える権利はある。
つまりは甘えるという行為は平等なのである。
その甘えるという行為事態、人によって様々で。
甘えるのが上手な人が入れば、苦手な人もいる。
私の好きな人はどうやら後者の方らしい。
「ねぇー、日向君そろそろ出てこない?」
かれこれ3日近く布団の中に篭ってしまっている。
その原因だって他人からしたら本当にどうでもいい事。
でも、そのどうでもいい事が本人にとっては大事だったようで、冬眠中の熊の様に一向に出てくる気配がない。
出会った当初からプライドは高そうだとは思っていたけど、そのプライドが踏みつけられる度こうなるのは勘弁してほしい。
素直に悲しいだとか悔しいだとか言ってくれればこっちだってそれなりに対応するのに。
彼の中の変なプライドがそれを許さないらしい。
「みんな心配してるよー?」
1回目はこう言ってやれば申し訳なさそうに出てきたが、もうそれも通用しないらしく一切の反応が無い。
「日向君がいないと寂しいよ」
これは2回目。
「日向君の力がいるの」
これが3回目。
結局彼は甘えているのだ。この現状に。
彼は自分が他の人に必要とされている事を、ただ実感したいが為にこう引きこもるのだ。
本当可愛くない甘え方だなぁ。
「ひーなーた君」
死んでるんじゃないかと思うぐらい返事がない。
もういい加減布団を取っ払って、無理矢理にでも外に出してしまおうか。
ロフトベットを登って布団をめくる。
当たり前のようにそこに日向君がいて、眩しそうに私を見る。
「いつまでこうしてるつもりなの」
私の問いかけに応える気がないのか、ゆっくりと目をそらしていく。
まともにご飯も食べていないようで、顔色もあまり良くない。
「そんな事してたって何も変わらないよ」
それを一番よく分かってるのは日向君でしょう。
日向君が作った布団のお城にゆっくり入っていく。
初めからこうすれば良かった。
「ふふ、ばぁっ」
びっくりしたでしょって笑って見せると、困ったような顔で抱き締めてくる。
日向君の体温がじんわりと心地良い。
日向君が独り言のように言葉を吐く。
今にも消えそうな小さな言葉。
俺は何も出来ないから、名前にいつか嫌われるかも知れない。
そんなたった数行の言葉が重くて、辛くて。
本当はね、私は生きる事にそんなに執着が無いんだよ。
でも、日向君のそばに居たいから。
私はこうしてしぶとく生きているんだよ。
何も出来ないなんて言わないで欲しいな。
「…何でお前が泣くんだよ」
だって日向君が泣かないんだもの。
悲しい時はいつだって泣いていいんだよ。
でも、それでも泣かないって言うんだったら。
私が代わりに泣いてあげる。
これも充分愛でしょう?
上手な空の見上げ方
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