ぽん、と小気味の良い音を立て、歪な形のコルクが抜けた。きのこのように上部の膨らんだコルクは、甘い薄桃色をしたシャンパーニュがそれなりの年月を経て熟成されたものであることを示している。ほんの少しボトルを傾けただけで口から零れ落ちるそれをフルート型のグラスが受け止め、弾けた。小さな小さな泡の弾ける耳触りの良い音を響かせ、無駄に豪奢なシャンデリアから降り注ぐ飴色の明かりを受けてキラキラと光るそれはどうにも、細身のグラスを手にした男――ドフラミンゴによく似ている。自己主張の激しさといい、鼻をつく甘ったるい匂いといい、色味は少々可愛らしすぎるきらいはあるがこの男が好んで纏う羽毛を思い出せば、やはりそっくりだった。
 似ているのは当然だ。この男を想い、この男の為に、わざわざ手間と金をかけて取り寄せた最上級のシャンパーニュなのだから。ドフラミンゴの長い指に弄ばれるグラスを半分ほど満たしたそれを、今度は己のグラスにも注ぐ。細く華奢に見えるグラスはけれど彼に合わせて作られたものであるから、それだけでボトルは随分と軽くなった。
「味わって飲んでくれ。手に入れるのは骨が折れた」
 言いながら、グラスを合わせる。高く澄んだ音。ほんの少しの振動で再び弾けた泡が光る。
「あァ、そうする」
 頷いて、そうしてグラスを傾けたくせに、彼が人の話を聞かないことなど既にわかりきっていたことだ。あまりにもあっけなく一気に飲み干されたそれは、彼の唇が触れていた縁から一筋、側面を伝い消えた。
「だから、味わえと言ったのに」
「フッフ、悪ィな。美味かったから飲んじまった」
 これは、儀式のようなものだ。この15年毎年のように繰り返される、くだらない、けれど愛おしい、馬鹿げた儀式。彼の為に用意した酒、それを迷いなく飲み干す彼の、ドフラミンゴの、絶対の信用をまだ得ているのだと確認し歓喜する為だけの。まったくくだらないそれに気付いているだろうに、桃色の羽毛を敷き詰めたソファーにゆったりと腰掛ける彼はそれを哂ったことなどなかった。いつもただ飲み干したあと、濡れた唇を指先で拭う。それだけだ。
 そして今年もそれは変わらなかった。ちらりと目をやった時計の針が既に日付が変わっていたことを示している。色硝子越しに瞳を細めたドフラミンゴの手を取り、ほんのりと甘い匂いをさせる指先に口付けた。
「…遅くなったが、誕生日おめでとう、ドフィ。お前が生まれてきてくれたことを嬉しく思う」
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