付き合いの長さだけならば、既に生きてきた年数の半分を占めている。出逢った当時は彼の突飛な行動に驚かされることもあったけれど、今では彼が何をしでかしても動じることはなくなった。そもそも彼の行動は、一見唐突なように見えて実のところ思いつきでも気まぐれでもなんでもなく、計算し尽くした計画の上であることが多い。意味など見出せそうもないくだらない軽口でさえ、後に気付かされ唖然とすることも多々あったが、彼が何を考えているのか、何を望んでいるのかを理解し、賛同するようになれば、彼の行動を読むことは難しくはなかった。
 だというのに、この状況はいったいどうしたことだろうか。それなりに優秀であると自負している脳味噌を、ヴェルゴは努めて冷静に働かせる。止めはした。したが、聞き入れられなかった。重い、とも言った。鼻で笑われた。ソファーの肘掛が背に当たり、若干痛いのだけれど。
「…いきなり、どうしたんだドフィ」
「なんだっていいだろ。いいから座ってろ」
 太腿を圧迫する重みも温みも実際のところ決して不快ではないのだけれど、彼――ドフラミンゴは、随分と機嫌が悪いようだった。いや、機嫌が悪い、というよりも、疲れているのだろうか。彼のトレードマークとも言える禍々しい(そうとしか表現できない)笑みは鳴りを潜め、口端は下がりきっている。まったくもって、珍しい。
「よくないだろう。何があった」
「なんでもねェよ」
 なんでもないのにお前がそんな顔をするものか。口には出さなかったけれど、表情にはありありと出てしまっていたのだろう。ほんのわずかに口角を上げたドフラミンゴの手が伸び、長い指先がヴェルゴの眉間に押し付けられた。ちょっとそれは強すぎるんじゃないだろうかと抗議の声を上げたくなる強さでぐりぐりと刻まれた皺を伸ばされ、思わずその手を掴む。
 ずれてしまったサングラスを直し、不意に気付いた。彼の手に触れたのは海軍にこの身を潜り込ませる前、それこそ出逢ったばかりの、まだ彼を御しきれると思っていた頃以来ではないだろうか。
「………」
 冷静に考えてみれば、男の手を握ってまじまじと見つめる、なんて機会は人生の中でそう多くはあるまい。それなのに、なぜかとても勿体ないことをしてきたように思える。そうだ、とても勿体ないことをしてきた。他人の身を弄び、ときには奪うドフラミンゴの手は、存外に綺麗なものだった。
 いや、女のような柔らかさやしなやかさなどがある訳ではない。けれど、骨ばった長い指も、切り揃えられた爪先も、やけに印象に残るなりをしている。大人しく己の手に納まっているそれを引き寄せ、少し冷たい指先に口付けたのは、だから、無意識だった。
 唇に触れる硬い爪に、今己が何をしたのかを自覚する。彼に対してそうした感情が己の内に巣食っていることはわかっていたが、流石にこれはどうしたものか。
 しかし、くつくつと肩を震わせるドフラミンゴの機嫌が少しでも回復したのであれば、悪くはないと思った。
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -