ほんの少し指先に力を込めただけで、それらは呆気なく、ひどく容易に、その身の自由を明け渡す。まるで糸繰り人形のように滑稽で哀れなそれらが叫び喚き怯える様は、ドフラミンゴにとって退屈極まりないこの招集を少しでも有意義なものにするために暇潰しでしかなかった。
 四肢の自由を奪われ、日々の生活を共にする仲間を己の意思では無いとはいえその手にかける、そんな無様で愛おしいそれら。ドフラミンゴの実力、立場を知っているだけに仲間を救いたくとも下手に手を出すことも出来ず遠巻きにしているそれら。いずれもドフラミンゴにとっては愛すべき無力であり、唾棄すべき無力だ。
 敵陣としか形容のしようもないこんな場所でそれらの命までを奪うつもりなど毛頭ないのだけれど、あまりに必死な様子のそれらを見ていると、ついやりすぎてしまう。彼とそれらの間に張り詰めていた緊張がふつりと途切れたのは、悪ふざけが過ぎただろうかとドフラミンゴが捉えどころのない笑みを深くした、その瞬間だった。
「仮にも聖地と呼ばれるこの場所であまり勝手をされては困るな、ドフラミンゴ」
 響いた低い声に湧き立つそれらを一瞥し、声のした方を振り返る。振り返らなくとも、声の主が誰かなど十分すぎるほどにわかってはいたけれど。
「うちのかわいい部下達が随分と世話になったようだ」
「…フッフッフ、いやァ、生憎退屈なのは嫌いでね」
「それならば案ずることはない。じきに元帥もいらっしゃる」
 色付いた硝子越しに細められた瞳。交錯した視線がちりちりと空気を焦がし、一度はその騒がしさを取り戻したそれらが再び息を潜める。カツカツと床を踏み鳴らしながらドフラミンゴの隣をすり抜けたヴェルゴはそれ以上彼に構うこともなく、へたり込んだそれらの身を案じるように、大袈裟に両の手を広げて見せた。
「怪我はないか、お前たち」
 そうした彼の部下を気遣う上司然とした態度に、背を向けたままドフラミンゴは口角を吊り上げる。もし、もしも今この場でたった一言、殺せとドフラミンゴが口にしたならば。今しがたそれらを守ったその手で、なんの迷いもなく、彼はそれらをただの肉塊にするのだろう。
 そう思えば、ドフラミンゴはなんだかひどく、愉快な気分になった。
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