いつ見ても巨大なバスルームだと思う。部屋の主の体格を慮れば確かにこれくらいのサイズは必要だろうとわかってはいるのだが、このバスルームに入るとドフラミンゴはいつも己自身が規格外の体格の持ち主だということを忘れた。己と比べて倍以上の身長体格の持ち主が使うバスルームは、自分ひとりで使うには大きすぎる。だが、だからと言ってこんな時に二人でバスルームに籠るなんて冗談ではない。身の危険を感じる今ならばなおさらだ。肩と膝裏に回された巨大な腕にがっちりとホールドされてはもがく事しか出来ず、ドフラミンゴはますます焦りを募らせる。やめろと言って止める相手ではない事は分かっているが、受け入れてしまっては己の中で何か大事なものが失われてしまう気がした。それだけは阻止したい、そう思うのだが、いかんせん満足に動かせない身体で圧倒的な体格差を覆す事など出来はしないのだ。
「やめろくま!離せ下ろせいい加減にしろ!」
「それはこちらの台詞だ。いい加減諦めろ」
どれだけ必死に暴れてみてもびくともしない。それどころか涼しい顔で簡単に抵抗を封じられてしまっては矜持もなにもあったものではなかった。バスルームのタイルの上に直接腰を下ろしたくまは服を着たままだ。普段と変わり映えのしないジャケットだが、僅かに彼の黒い髪が濡れているのをみるとくま本人はもう一度シャワーを浴びたのだろう。片やしっかりと服を着込み、片や全裸で膝の上で横抱きにされている。相手からは己の全てが丸見え、などという羞恥を煽るその状況は、いくら常人と感覚の違うドフラミンゴとて受け入れられるものではなかった。
「だいたいお前、なんで服着てんだよ!」
「…不服か」
「当たり前だろ!」
怒鳴りつけたくもなる。そんなドフラミンゴの心境を知ってか知らずか、くまはシャワーコックに手を伸ばすと着込んだ服が濡れるのも気にせずにコックを捻った。頭上から降り注ぐ冷たい水に、ひ、と小さく声を上げたドフラミンゴは肩を竦めるが、酷く冷たかった水はすぐに体温に近付きやがて熱さを感じるほどになった。疲れた体には心地の良い温度だ。一瞬肩の力を抜いてしまったドフラミンゴは、次いでくまのとった行動に咄嗟に反応する事が出来なかった。ひょい。まさに、そんな擬音が似合う動作だった。両脇に手を差し込まれ、抱きあげられる。赤ん坊か、と言いたくなるようなその抱き方に不満を漏らすよりも早く正面を向かされ、下ろされ、腰を抱き寄せられた。くまの胡坐を跨ぐ形で膝立ちを強要されたその体勢は完全に腰が抜けているドフラミンゴにとっては辛いものがあるが、服が濡れるのも厭わずぴたりと密着させられた上半身は暴君のせめてもの気遣いか。膝立ちでなお胡坐を掻いたくまの胸元が眼前に来るその体格差に若干の憤りを覚えながらも、ドフラミンゴは次のくまの行動に備えて相手の背に腕を回ししがみつく事しか出来なかった。するりと開いた足の間に滑り込む手に(おそらくは無意識に)太ももの筋肉を緊張させたドフラミンゴの耳に、微かな笑い声が響いた。ムッと眉間に皺をよせ声の主を見上げれば視界に映る相変わらず楽しげな顔。こんな顔が出来るのかと驚いたのはいったいいつのことだったか。
「そう怯えるな」
「…フッフッフ、誰が怯えて…っ、ア…!」
ぽつりと落とされた呟きに不愉快だと言わんばかりに口角を吊り上げ表面上の余裕を繕うドフラミンゴの言葉を遮る様にくまの指先が滑った。つい3時間前までぐずぐずに溶けていたそこは未だ柔らかく、常人よりも遥かに太い指の侵入を容易く許容する。ぐ、と押し込まれる中指。微かに息を詰めるドフラミンゴを宥めるように、腰に添えられたくまの手がそこを緩く撫でる。更に深くまで侵入する指先がぬるりと内壁をかき混ぜ、また唐突に引き抜かれた。散々中に吐きだされた白濁が指に絡み、頭上から降り注ぐ湯に流され溶けていく。もったいない。そんな単語がくまの脳裏を過った。綺麗になった指を再びドフラミンゴの後孔に埋め、ぐちゅりと淫猥な水音を立てる粘膜の感触を楽しむようにかき混ぜ、引き抜き、幾度も幾度もそれを繰り返すたびにびくびくと腰を跳ねさせる。もはや目的が変わっている気がしてならないドフラミンゴは、いつ終わるともしれないその行為に早くも嫌気がさしていた。そもそも意識が吹っ飛ぶほど苛まれた身体はとうに限界を訴えているのだ。過ぎた快楽は苦痛だと言うが、まさにその通りだと身を持って体験させられたドフラミンゴがさっさと終わらせてもう一度眠りたい、と心から願ったとして、目の前の男以外に非難するものはいないだろう。
「ァ…ッ、おいくま…、てめ、しつこいんだよ…!」
幾度目かに指が引き抜かれるタイミングを見計らって、ドフラミンゴはようやく抗議の声を上げた。たかが事後処理。そう言い聞かせても上擦る声は押さえようがないが、そんな事を気にしていては不満さえ伝える事が出来ない。伝えたところで聞き入れられるかどうかはまた別の問題だが、少なくともこちらは不本意なのだという意思を伝えておかないと後々何を言われるかわかったものではない、と言うのはドフラミンゴが常々思っている事だ。
「…早く終わらせて欲しいか?」
一瞬の空白の後に問われた言葉は、ドフラミンゴにとって本来であれば迷うことなく頷きたいものだった。しかしこの男の言葉を額面通り素直に受け取ってはいけない。経験上それを知っているドフラミンゴは、咄嗟に返事が出来ず言葉に詰まる。その沈黙をどう受け取ったか、くまは不意に腕を伸ばし壁に掛けられたシャワーヘッドを手に取った。腰を支えていた手が離れ、ドフラミンゴの背筋を寒気に似た予感が駆け抜ける。
「待てくま、お前、なに…く、…ッ」
勢いを増した水流が足に当たるのを感じ、くまのしようとしている事を理解してしまったドフラミンゴが咄嗟に制止の声を上げた。しかしドフラミンゴの抵抗を咎めるように2本に増やされた指が後孔を押し広げ、ドフラミンゴはそれ以上言葉を続ける余裕を奪われる。2本の指で器用に広げられた後孔から、くぷり、と小さく音を響かせてどろりとした白濁が溢れ出し、ドフラミンゴはいったいどれほど注ぎ込まれたのかと気が遠くなった。誰に聞いても朴念仁だと評されるだろう男の本性をまざまざと見せつけられ、改めてドフラミンゴは何故この男が好きなのだと自問する。答など、今まで出た試しも無かったが。
「望み通り、すぐに終わらせてやる」
「や、めろ…!頼むからほんとにやめ…っ、ひ、―――ッ!!」
更に広げられた後孔に、宛がわれる熱。勢いのある水流はぴたりと押し付けられた狭い内壁を押し広げるようにして入り込み、粘膜を濡らしていた白濁を洗い流す。人肌よりも熱い水流は敏感な粘膜には刺激が強すぎるのか、ドフラミンゴの声にならない悲鳴が広いバスルームに響いた。じっとりと脂汗を滲ませる額をくまの胸に押し付け、濡れたジャケットを握り締める指先が血の気を無くし白く染まる。ばしゃばしゃと足元に落ちる湯の感覚すらも曖昧で、ドフラミンゴはいっそこのまま気を失ってしまいたいと心から願った。いったいどれ程堪えたのだろうか。おそらくそれ程時間は経っていないはずだが、ドフラミンゴにとっては酷く長いその瞬間が唐突に終わる。後孔を塞いでいた水流が離され、強張りきっていた身体から力が抜けた。膝が笑う。投げ出されたシャワーヘッドがくるくると回りながら水流を撒き散らし、バスタブにぶつかって動きを止めた。くたりと脱力した指先は辛うじてくまのジャケットに引っ掛かり、いつの間にか後孔から離されていた手が再びドフラミンゴの腰を支える事でどうにかくずおれることは無かったが、もう怒鳴る気力さえ残ってはいない。荒い呼吸を繰り返すドフラミンゴの背を宥めるように撫でて、くまはくつりと喉を鳴らした。
「随分と苦しそうだな」
「…っ、お陰さまで、な…、ア…ッ」
ほんの一瞬前まで背を撫でていた手がするりと腰骨を滑り下降し、そのまま既に反応を示しているドフラミンゴの陰茎を軽く握り締める。もう出すものなど無いと思っていたが、3時間の休息は多少なりとも男としての機能を回復させるには有効だったようだ。
「嫌がっていた割には、この反応か?」
「こうなるから、嫌がったんだろうが…!」
ゆるり、と手中の物を撫で上げられ、息が上がる。もはや自力で声を抑える余裕のないドフラミンゴは、水分を含み重さを増したくまのジャケットに噛み付きせめてもの抵抗を示して見せる。ここまで来て焦らすつもりは無いらしく、親指の腹で裏筋をなぞりながら限界を促すくまの手に容赦は無かった。
「ふ、く…ッ、ン―――…ッ!!」
それに抗うことなく追い上げられたドフラミンゴは、きゅう、と根元から強めに扱かれただけであっさりと限界を迎えた。ぱたぱたとタイルに落ちる殆ど色の無いそれは未だ湯を流しつつけるシャワーによって跡形も残らずに洗われる。今度こそ全身から力が抜け、ドフラミンゴはくまに身体を預けるようにしてずるずると座り込む。もうこれ以上は無理だと全身で訴え今にも眠ってしまいそうなドフラミンゴを己から引っぺがすと、くまはずぶ濡れになったジャケットを脱ぎ去り放り投げる。べちゃりと間の抜けた音がバスルームに響いた。シャワーのコックを捻り水流を止め、くったりとしたドフラミンゴの身体を抱え上げる。
「…もう、しねェからな…」
「分かっている。おれもそこまで鬼じゃない」
バスルームに放り込まれた時と同じ抱き方をしてももはや抵抗すらしないドフラミンゴは余程疲れ果てているのか、軽く目を閉じたまま呟いた。それに応えるくまの言葉に僅かに眉間に皺を寄せたもののそれ以上言及はしない。バスタオルに包まれ、ベッドへ放り投げられて無言でわしわしと頭を拭かれている間にドフラミンゴの意識は少しずつ薄れ始めるが、この心地良さはすぐに眠ってしまうには惜しいと思ってしまった。もう少し、もう少し、とどうにか意識を繋ぎとめるドフラミンゴが船を漕ぎ始めると、その珍しい様子にくまが手を止める。どれだけ身体を重ねても基本的には警戒を緩めなかったドフラミンゴの、最近の警戒心の緩みっぷりはなかなかに面白いものがある。気を許されている、という事実に甘えているのは実はおれの方だ、と伝えたら、ドフラミンゴはどんな顔をするだろうか。そんな事を考えながら、あらかた水分の取れたドフラミンゴの頭を軽く撫でてやる。そのまま頭をぶつけてしまわないように気を付けながら身体を寝かせ、シーツまで掛けてやってから再び濡れそぼってしまった服を着替える為に、くまはベッドサイドを離れた。



調子に乗りましたごめんなさい。
いらない裏設定:くまが服着たままだったのはドフラミンゴにしがみつかせる為。
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