おかしい。脳味噌が熱で溶けてしまっているのではないかと本気で思ってしまう程思考がまとまらず、ドフラミンゴは内心舌打ちしたい気分だった。実際にはそんな余裕ありはしないのだけれど、そうでもしないとやっていけないというものだ。ズクリ。体内で脈打つそれが更に奥へと侵入してくるその感触に背筋が震える。最早麻痺してしまっているのか痛みはほとんど感じないが、ドフラミンゴに言わせれば痛みがあった方がまだマシだった。己の身体すら支えきれない両腕は既にくずおれ弱々しくシーツを握り締める事しか出来ず、どうせならいっそ完全にへたり込んでしまいたいと言うのにこの(ドフラミンゴに言わせれば)性格の悪い暴君の手が腰を掴んでいる所為でまるでそこだけを突き出すような体勢を取らされている。屈辱的なことこの上ないが、既にこの体勢で数度絶頂に追いやられている身体は満足に抵抗する事も出来ない。トレードマークと言えるサングラスすら奪われ表情を隠す術も失った今のドフラミンゴに出来ることと言えば、せめて声だけでも漏らさないように耐えることのみであった。
「…どうした」
「は…、ァ…っ、そ…こで、喋んじゃね…ェ…!」
不意に耳元で響いた声に、びく、と肩を震わせる。こんな時ばかりどこか甘さを含んだ低い声は堪らなくドフラミンゴを欲情させたが、体力的にも精神的にも限界に近付いている今はただの嫌がらせにしか感じられなかった。弱いと知っていてそこを責めるこの男は、存外に性格が悪い。それが、くまと身体を重ねるようになったドフラミンゴが出した結論だ。暴君、と呼ばれていた理由が良く分かった、と零した時にくまが見せた表情を、ドフラミンゴは生涯忘れられないだろう。
「好きだろう?ここ」
「…っの、やろ…ッ」
つ、とぬめった舌先で耳朶をなぞられ跳ねそうになる腰は掴まれていて(押さえつけられているとも言うかもしれないが)びくともしない。何度目か数える事も馬鹿らしいほどに達したドフラミンゴがもういやだと弱音を吐いてから既に幾許かの時が過ぎているが、くまは止める気配を一向に見せなかった。最後に達してから一度も触れられていない自身は既に硬さを取り戻し先走りを零している。瞳を閉じ、浅い呼吸を繰り返し息を整えようとするドフラミンゴの耳元で言葉を紡ぐ度にひくひくと反応する後孔を楽しむかのように動こうとしないくまに、いい加減にしてくれと叫びたくなるのをなんとか堪え、ドフラミンゴは唇を噛んだ。ふざけるなと怒鳴ったところでこの寡黙なふりをした外道には通用しないだろう。それが分かっていて誘った己も大概だとドフラミンゴは思った。
不意に噛み締めた唇にかさついた感触が触れた。うっすらと目を開けば黒い手袋に覆われたくまの指先が唇を辿っていて、背筋を伝った嫌な予感にドフラミンゴは咄嗟に顔を背けようとする。が、顎を掴んだその手にぐっと引きもどされ更には上向かされてしまうと呼吸すらも阻まれてしまい、ドフラミンゴは微かに苦しげな吐息を漏らした。
「唇を噛むな。傷が付く」
「て、め…ッ、ン…」
抗議の声を上げようとした唇にくまの指先が侵入する。革の指先は唾液を絡めるとぬるりとした感触を得て、ドフラミンゴの常人よりも些か長い舌を器用に捕らえた。こんなところまで性感帯になるのか、とどこか外れた事を考えながらドフラミンゴはくまの好きにさせる。逆らったところでこの暴君が止めるとも思えない。だが、喉奥まで指を突っ込むのは止めて欲しい、とえづきそうになりながらドフラミンゴは思う。せめてそれだけでも止めさせようと奔放に咥内を探る指に軽く歯を立てた瞬間、ズルリ、と後孔をぎっちりと満たしていたモノが引き抜かれた。
「うあ…っ、あ、ふ…ッ」
思わず背を反らせる。まるで内臓ごと引き摺られそうなその感覚に堪えていた声が止めようもなく溢れ、視界がぶれた。どうせなら全て引き抜いてくれれば良いものを、未だ先端を含んだままの後孔がひくりと震えドフラミンゴは唾液に塗れたくまの指に再び噛み付いた。ごり、と歯が骨を圧迫する感触と耳元で響いた微かに息をのむ声にほんの僅かだが意趣返しをした気になっていたドフラミンゴは、くつり、と吐き出された笑みを含んだ吐息にザッと血の気が引いて行くのを感じる。
「…オイタは感心しないな」
「…ッ、まて、くま…―――ッ!!」
耳元で囁かれた言葉に恐怖を覚えたドフラミンゴが制止の声を上げたのと、舌先を弄んでいた指が引き抜かれ、そして舌を這わされただけで肩を震わせる程に敏感な耳朶に歯が立てられ引き抜かれていた灼熱が再び突き入れられたのは同時だった。声もでない、とはまさにこの事だ。強過ぎる衝撃に、視界が真っ白に染まる。既に幾度も欲を吐き出された後孔はしとどに濡れそぼり無理な挿入も辛うじて傷付くことなく受け入れはしたが呼吸すらも満足に出来ずにはくはくと唇をあえがせる様は、いっそ哀れだとくまは思った。唾液を纏ったままの片手もドフラミンゴの腰に添え、両手でしっかりと支える。おそらく無意識だろうが、前へと逃げようとする身体を押さえつけるようにして引き止め、くまは更に腰を進めた。
「か、は…っ、あ…ッ」
快感よりももう苦痛の方が大きいのだろう。見開いた瞳にうっすらと張られた涙の膜が決壊し零れ落ちる。苦しげな吐息を吐き出す喉はめいっぱい反らされているが、声らしい声が発せられる事はなかった。
「呼吸を止めるな。力を抜け」
口調だけは宥めるような響きを含んでいるが、腰を引きドフラミンゴの後孔から己のそれを引きずり出しながら言ったところでまともに思考が働くはずもない。何を言われているか理解しているのかすらも怪しいドフラミンゴは緩慢な動作で再びクッションに顔を押し付け首を横に振る。むりだ、もうやめろ、たのむから。言いたい事は沢山あるのだろうが、全て言葉にすることが叶わない。しかしその様子に構うことなく、くまは容赦なく腰を打ちつけた。途端に蠕動を始める粘膜がねっとりと絡み付くその感覚に微かに息を乱し、眉根を寄せる。
「あ、あ…ッ、は…ア…っ」
歯を食いしばる余裕すらも無いのかもはや閉じる事も出来なくなった唇からは切れ切れに悲鳴に近い声が溢れ出る。不規則な呼吸音。それに堪らなく煽られる己を自嘲する。さすがに衝動のままに入りきらない全てを納めてしまおうとはしないが(いくらなんでも死んでしまう)それでもかなりの深さを犯されるドフラミンゴの負担はかなりのものだろう。びくびくと痙攣しだした内壁にドフラミンゴの限界を感じたくまは、突き下ろすようにしてドフラミンゴの弱点を擦り上げる。
「――――――…ッ!!!」
「…ッ」
たったそれだけで、限界などとうに通り越していたドフラミンゴはあっさりと達した。一度として触れられる事のなかった自身は微かに震えただけで吐きだすものすらなくくたりと力をなくす。ドフラミンゴが達する瞬間の締め付けでくま自身も限界を迎えると、未だ痙攣を続けるドフラミンゴの体内へと己の熱を吐きだした。














「…腰が痛ェ」
「起き抜けにそれか」
目を覚まして一番最初に目に入るのが恋人。それは本来とても幸せな光景の筈であったが、ドフラミンゴに言わせればそれは相手が可愛い恋人であった場合にのみ当てはまる。間違っても本気で意識が飛ぶほどがっついて悪びれもしない男が相手だった場合は、幸せよりも先に怒りと羞恥と倦怠感に襲われるのだ。今も、浮上した意識がしっかりとした形を持って目を覚ました瞬間から腰に走る鈍痛と唾液も飲み込めずに喘ぎ続けた所為で掠れた喉の痛みが気を重くする。明日一日はきっと動くこともままならないだろう。
「仕方ねェだろ、痛ェもんは痛ェんだよ。…何時間オチてた?」
「…3時間と言ったところだ」
「そんなもんか、…ッ」
いつの間にか仰向けに寝かされていた身体を捩った瞬間、どろりと溢れ出て来るものがあった。不快気に眉根を寄せその感覚に耐えながら、ドフラミンゴは隣で聖書に視線を落とすくまを睨み付ける。人の身体を酷使しておいて、なんの後処理もしてくれていないと来ればさすがに頭にも来るというものだ。精魂尽き果てているおれをもっと労れ。そういってやろうと口を開きかけたドフラミンゴだったが、不意に口角を上げたくまに思わず口を噤む。
「そう睨むな。お前が起きるのを待っていたんだ」
「あ?何の為に」
「気絶した人間を風呂場で洗っても楽しくもなんともないだろう」
ひくり。聖書を閉じ此方へと視線を向けながら言ったくまの台詞にうすら寒いものを覚え、ドフラミンゴは口端を引き攣らせる。逃げろ。脳内で警鐘が鳴り響くが、生憎身体は満足に動かない。再び背筋が冷えていくのを感じて身体を起こそうとしたドフラミンゴの左腕を掴むと、ひょい、と擬音が付きそうな軽やかさでくまはドフラミンゴの身体を抱え上げた。所謂お姫様抱っこ、だ。一瞬顔に血が上りそうになったドフラミンゴはしかし、くまの足の先が向く方向に顔を青くする。おれ死ぬかもしれない。本気でそんな事を考えながらドフラミンゴは慌てて暴れ出した。いったい何が悲しくて大の男が全裸で姫抱きなどされなくてはならないのか。
「おい待て…!いい!動けるようになってから一人で風呂入る!」
「遠慮するな。全て掻き出して隅々まで洗ってやる」
「遠慮じゃねええええええええ!!!」
満身創痍のドフラミンゴが暴れたところでなんの支障もない、と言うように歩調を変えずバスルームへ向かうくまの表情は酷く楽しげだった、とドフラミンゴは後に語る。






何も言うことはありません。ごめんなさいほんとごめんなさい。
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