────まるで、泣くように微笑う(ひと)だ。

ひと目見た時、おれが彼女に抱いた感想はそれだった。



仄暗い照明とデザインの凝ったインテリア。ここはとあるビルにある隠れ家的なダイニングバーの個室。テーブルを挟んで椅子に座るのはサボと、そしてナマエの姿。

「ありがとうございます。仕事始めで忙しいところを」
「そんな、とんでもないです。それに忙しいのはサボさんも同じでしょう」

三が日最終日にナマエがサボに掛けたのあの電話。その際に翌日この場所で直接会おうと提案したのはサボだった。
適当な挨拶を交わせば、程なくして二人の元にドリンクが届く。華奢なグラスに入った液体は小さな気泡を作り、それがプクプクと表面で小さく弾けていた。乾杯、とどちらからともなく声をかけてグラスを軽く合わせると少なめにそれをひとくち口内に含む。

「お久しぶりです」
「…ええ、お久しぶりです」
「貴女≠ニ会うのは、あいつの墓の前∴ネ来ですね」
「───っ!」

サボの台詞に目の前のナマエが途端に息を詰める。大きく見開いた瞳がゆらゆらと揺れた後、震える息を殺すように口元に手を当てて「はい」と小さく小さくナマエは言った。これまでの衝撃や不安をなんとか閉じ込めていたのだろう、顔を合わせてからここで初めてぽろりと一粒の涙が彼女の頬を伝う。それをサボは静かに見つめていた。


*****


エースが眠るところはまるでこの世界から切り離されていると錯覚してしまいそうな程、美しくも儚い…そんな場所だった。
もし、天国というものが存在するのならこんなところなのだろうか。柔らかな風と太陽の光が当たる穏やかなこの場所にいるとそう考えてしまう。だとしたらどうか、安らかに。二つ並んだ墓の左側ポートガス・D・エース≠ニ刻まれたそれの前でサボは瞳を閉じた。
幼きあの日、兄弟の絆を誓った三つの盃。それと同じものを墓の前に置いてまず知らせるのは末っ子の弟の活躍。そして、十年間大事な兄弟のことを忘れ続けていたことへの深い懺悔だった。叱責、後悔、絶望。ありとあらゆる言葉を当てはめようとも、己の心の中に落としたこの影は到底言い表せることなどできなくて。どんなに謝罪の言葉を述べても少しも胸のすく思いはしなかった。

「…エース。お前は、」

幸せだったか?
世界を恨んで、恐怖でもいいから己の名前を世に知らしめてやると意気込んでいた少年。身内には優しくともその姿はまるでよく切れる研ぎ澄まされたナイフのようだった。危うく、そしてどこか脆い印象を抱かずにいられなかった彼。自分がいなくなった後、一体どんな人生を辿っていったのか。きっとエースのことだからくい≠フないようには生きたんだろう。あいつの人生に何かを言うつもりはない。だがどれだけここでそれを問おうとも何も返答が返ってこない…その事実がひたすらにサボの心を苦しめた。

涙を一頻り零した後に告げたのは、自分が現在革命軍に所属していることと簡単な近況報告。大した時間もかけずにそれらを話し終えるとサボは軽く息を吐いた。会えなかった十年という空白の期間、本当は話すことなど腐るほどある。だがこの場で全てを丁寧に話す気持ちにはなれなかった。話せば話す程、何だか虚しさだけが募るような気がして。これはいつかきっとあの世にでも行った時に土産話として持っていくさ。そう呟いて最後にもう一度瞳を閉じる。三つの盃を前に様々な思いを巡らせれば、サボはゆっくりと立ち上がった。

「エース、またな」

革命軍の参謀総長という立場にいる自分が今度いつこの場所に来れるかは…分からないけれど。でもそうだな、可能ならば今度はルフィと一緒に。そう頭の片隅に置いて踵を返した時だった。

「!」
「あ…」

視界の先に立っていた、一人の女。手には花束を持っていた。何をしに来た…というのは明確だろう。バチリと合った視線に軽く会釈をされてサボも反射的に会釈をし返した。

「すみません、先客がいたなんて…。お邪魔しちゃいましたね、出直してきます」
「いや、大丈夫です。おれはもう行くので」

逃げるかように立ち去ろうとした彼女を引き止める。彼女は少しの沈黙の後もう一度「すみません」と申し訳なさそうに言うと、ゆっくりとこちらに近づいてエースの墓の前に立った。その横顔は何と言うのだろうか、憂いを帯びており今にもどこかに散って消えてしまいそうな…そんな雰囲気を纏っていた。すぐに立ち去ろうとしていたことを忘れて思わずサボは彼女の姿を見つめる。そんなサボの視線に気づいたのか、彼女は顔をこちらに向けると少しだけ困ったように微笑んだ。その笑顔が、ひどく悲しげで。

(なんて、泣いているように微笑う(ひと)なんだろうか)

そう思わずには、いられなかった。

「あなたは…エースのお友達ですか?」
「……!」

息を詰めて彼女の顔を見ていれば、首を傾げて投げられた問いにサボは言葉に迷った。友達ではない。だが仲間…とも違う。自分とエースの関係を形容する言葉はこの世に一つしかない。けれど、それを名乗っていいのだろうか。十年間忘れてきたおれが今ここでこれを名乗っても許されるのか。そんな迷いが一瞬にしてサボの頭の中を埋め尽くした。

「おれは…」

でも…やっぱりどんなに考えても、自分とエースを語る言葉はこれしか思いつかないから。

「おれは…エースの、兄弟です」

恐る恐る口にした台詞。微かに声は震えていた。別に目の前の女一人に告げることなどどうってことないはずなのに、ひどく緊張が襲い来る。

「…では、」
「ッ、待って!」

暴れまわる心臓を抑え込むように帽子を目深に被りなおして、足早にその場を後にしようとしたその時。張り上げられた声とともに力強く腕を掴まれた。反動で傾いた身体、パサリと視界の端で彼女が持っていたはずの花束が地面に落ちるのが見える。何事かと送った視線の先、彼女はまるで信じられないものを見るかのような、そんな表情をしていた。

「あなた…!あなたもしかしてサボ≠ウんですか!?」
「!」

どうして、おれの名前を。その台詞は声にはならなかった。だがサボの表情で答えを悟った様子の彼女はどんどんとその大きく見開いた瞳を潤ませる。

「…あ、ああ…!」
「!? ちょっ…」

やがてサボの腕をしっかりと掴んだままその場に崩れ落ちるように彼女は膝をついた。思わずサボも合わせるように姿勢を低くする。深く項垂れた頭、地面には大粒の雫が幾度となく落ちてシミをつくっていた。「よかった、本当によかった」肩を震わせて涙ながらに彼女は何度もそう繰り返し呟いた。



「すみません、いきなり泣いてしまって…」
「ああ…いや…」

しばらくした後、大方落ち着きを取り戻した彼女は深々と頭を下げた。

「私はナマエといいます。白ひげ海賊団の医療班として…エースと同じ船に乗っていました」
「……!!」

瞬間、心臓がドクリと音を立てたような気がした。あの空白の期間を知っている人間。白ひげ海賊団ということはサボはもちろん、恐らくルフィさえも知らないエースを知っている人間。突如として現れたそんな存在にサボの心臓は妙な緊張から早鐘を打った。上手く紡ぐ言葉を見出せないサボにナマエは未だに赤い目を細めて微笑うと、サボの手を包み込むように握った。

「あなたのことは、エースからよく聞いていました」
「……」
「生きていてくれて…ッ…ありがとうございます…!」

固く固くサボの手を握るそれに力が込められる。彼女は医療班だと言っていた。その言葉通り、細く白いその手は戦いを知っているようには思えなかった。それでも…伝わる温もりがまるで凍えた胸中を融かすようでひどく安心する。生きていてくれて、ありがとう=cそんな言葉をかけられたのはいつ振りだろう。革命軍の仲間たちに言われることは確かにこれまで何度かあったけれど。
どうしてエースが死んで、おれだけがのうのうと生きているんだ。弟が、多くの人間が命を賭して戦ったのに、おれだけ一人何も知らずに呑気に過ごして。失われた記憶を取り戻してからというものの、心のどこかでずっとそんなことを思い続けていた。

「───」

おれが生きていることを非難されることがあっても、感謝されることなんて無いと思っていた。
どうしてエースを助けに行かなかったんだと責められて当然なはずなのに。それなのに、彼女は涙ながらによかったと言う。ありがとうと言う。肝心のエースはもう、いないのに。
視界が歪む。気づけばボロボロと大きな雫をこぼしてサボは泣いていた。
エースのことを助けに行けなかったこと、ずっと記憶を失っていたこと、それらを今更ながらに詫びればナマエは何度も首を横に振る。そうしてまた「あなたが生きているならよかった」などと言うから。堪らず次々と零れ落ちる涙と漏れ出る嗚咽を隠すように手で顔を覆った。
いつもなら初対面の人間に対して殺気立つことはあっても、こんな姿なんて絶対に見せやしない。非常にみっともなくて情けないと思う。革命軍の参謀総長が聞いて呆れるとさえ思ったけれど、それでも、この涙を止めようとは思わなかった。


「あの…サボさん」

ナマエは落としたままだった花束を拾い上げて、エースの墓の前に置く。そうしてその場にしゃがみ込むと少し言いづらそうに口を開いた。

「よかったらでいいんです。その…あなたと一緒に過ごした時のエースの話を聞かせてもらえませんか?」
「!」
「エースったらどんなに聞いてもあなたと弟さんの話ばっかりで、自分のことは恥ずかしいのか全然話してくれなかったんですよ」

見つめる先の石碑に刻まれた名前を通して、彼女は一体どんなあいつの姿を思い浮かべているのか。とても優しい目をしていた。
ゆっくりとサボはナマエの隣に腰を下ろす。こちらを向いたナマエと視線が絡んで、ふ、と息を零すようにサボは微笑った。

「おれも…聞かせてもらえませんか。貴女と共に過ごしたエースの話を」

誰かとこうして、穏やかな気持ちであいつの話をすることが出来る日がくるなんて。

「…ええ、もちろん」

サボの言葉に一瞬だけナマエは目を瞬かせた後、そう言って嫋やかに微笑みながら頷いた。

それから時間の許す限り、それこそコアラが怒りながらカラスと共に迎えに来るまでサボとナマエは話した。時には腹を抱える程笑って、時には涙を浮かべて声を震わせて、そして時には石碑に向かって話しかけながら。二人…いや三人≠ナ談笑をし続けた。

「お忙しいのに引き止めてすみませんでした」
「いいえ、気にしないでください」

聞きたいことも話すこともそれはもう山のようにあったけれど。それでも限られたこの時間は無情にも終わりを迎える。今回は割と大目に見てくれたコアラだったが、彼女からそろそろ出ないといけないと何度か急かされた結果、漸くサボは重い腰を上げた。

「サボさん」

先で待つコアラとカラスの元に向かおうとするサボをナマエは呼び止める。振り返れば、彼女は深く一礼をした。

「ありがとうございました。…どうか、お元気で」

切実さを孕んだ声。ざあっと緩やかな風が辺りを吹き抜ける。まるでそのまま風と共にどこかに行ってしまう…そう思わせるように、変わらずどこか憂いを帯びた表情でナマエは微笑っていた。でもそれが儚げに美しく感じて、眩しいものを見るかのようにサボは目を細める。

「ナマエさんも、お元気で」

バサリとカラスが翼を羽ばたかせた音が響く。飛び立つサボをナマエは手を振って見送ってくれた。どんどんと遠く小さくなっていく姿を見えなくなるまでずっとずっと。


「……」

ナマエもエースの墓もなにも見えなくなって、辺りは真っ青な空と海ばかりが広がるところに出た頃、風を切って進むカラスの上でサボはただぼんやりと前を見据えていた。革命軍の船に向かっているそうだが距離があるのかまだしばらくは飛ぶらしい。だがカラスも近くを飛ぶコアラもサボへ何も声を掛けなかった。掛ける言葉を思案しているのか、気を遣っているのか。どちらにしろこの落ちた沈黙が少しありがたかった。
ナマエから聞くエースの話はあいつらしいと思う部分が多くあった反面、幼き時代しか知らないサボにとっては驚いた部分もそれなりにあった。あれだけ尖った部分を剥き出しにして粗さが拭えなかった少年が、数多くの仲間を得て穏やかに笑っていたなんて。そして事細かにエースのことを話してくれたナマエ。話を聞けば聞くほど彼女は随分とエースのことをよく見て理解している、そう感じずにはいられなかった。ナマエは自分のことを最初から最後まで一貫してエースの仲間だと言っていたが、多分…違うのだろう。仲間でも家族でも、そして自分のような兄弟とも違う。抱いた印象が間違っていなければナマエは恐らく、

(───なあ、エース)

どうして、死んだんだ。
そんなことを思っても仕方がない。あいつの人生だ、おれが何かを言うべきではない。分かっているのに、考えてしまった。海に出たと思えば親父と慕う人物に出会って、そして女までつくったのかよってルフィと一緒に笑いながら揶揄う未来を想像してしまった。それはもう決して、起こり得ないものなのに。

「…ッ」

エース、どうして死んじまったんだ。何でおれは今更こんな。あれだけ流し尽くして枯れたと思った涙がまた溢れてくる。息を殺して目元を手で覆い隠せばポタポタとカラスの身体に落ちる雫。それに申し訳ないと思いながらも声にすることはできなかった。
幸せだったか?¥Iぞ返ってくることはないと思っていたその答え。それは直接本人の口から聞くことが叶わなくとも、この時見出せたような気がした。
エース、お前はきっと幸せだったんだな。多くの人に出会って、温かい…家族のような仲間に囲まれて、偉大な親父に見守られて、みんなに愛されていたんだな。ロジャーの息子として生まれて世界を憎み続けたお前が。誰よりも愛されることに飢えていた反面、愛情というものに怯え続けたお前が。これ程にないくらいの、たくさんの愛を受けていた。そして他ならない自身の愛を注ぐ人までもを見つけていた。それらが分かって嬉しくて嬉しくてたまらないのに、どうしてだろう、涙が止まらないんだ。

なあ、

「逢いてェ…っ!」

一度でいいから逢わせてくれよ、エース。


*****


涙をハンカチで拭うナマエの姿を黙ったまま見つめる。鼻をすすりながら小さく「すみません」と呟いた彼女にサボは「いいえ」と一言だけ返した。
あの世界でナマエに会ったのはエースの墓で会話を交わしたあの時が最初で最後だった。たった一度の出会い。でもそのたった一度が鮮烈にサボの脳裏に焼き付いていた。それこそ彼女に関する記憶を取り戻してから、幾度となく名前と顔が浮かんではその姿を探した程に。

サボが初めて記憶を取り戻したのはもうずっとずっと昔のことだ。
今世の自分には生みの親がおらず、サボは物心ついた時にはすでに孤児院で過ごしていた。まあクソみたいな親に育てられるくらいなら最初からいない方がマシだと今では思っているけれど。
最初はぼんやりとした夢を見始めたところからだった。夢にしては妙に臨場感のあるそれは、回数と時を重ねるごとに明瞭になっていき、気づけばサボは徐々に記憶を取り戻していった。確か小学生になる頃にははっきりとそれが前世の記憶だってことを認識していたような気がする。
そして忘れもしない、サボが10歳になった頃。5歳のエースが自身のいる孤児院にやってきたのだ。その時のサボといったらそれはもうわんわん泣いて、泣きじゃくって。頭が良く、手のかからない子として通っていたサボが突然そんなことになるから孤児院にいた大人たちがひどく戸惑って驚いていたのをよく覚えている。
5歳のエースは前世で初めて出会った時と同じように荒々しく、この世の全てを恨んでいるかのような粗暴な少年だった。後々聞いた話によると前にいた別の孤児院であまりに手が負えなかったためにサボのいた孤児院に移ってきたらしい。今となっては笑い話だ。
それからサボも10歳という子供ながら絶対にエースを守っていくのだという確固たる意志を抱いて彼に接していった。最初こそ邪険に扱われたりもしたが次第に前と同じようにエースはサボに心を開くようになり、その数年後にはルフィがやってきてまたサボは同じように泣きじゃくってしまうことになるのだけれど。今でもあの頃の出会いは奇跡だと本当に思うし、自分だけ年上としてこの世に転生してきたのはきっと今度はしっかりと兄弟を守り抜けという意味なのだろうとも思っている。

そしてサボが年齢を重ねるのに比例して取り戻す記憶の量が増えるにつれ、目の前の彼女のことも自然と思い出した。
ずっと、探していた。いつか出会える日が来ることを心の奥底で待っていた。でも一向に出会わないナマエに、サボは悟られない程度にエースの周辺の人間関係を探ったりした時もあったが彼女らしき人物は全くいなくて。だからもう半ば諦めていた時だったのだ、エースがサボにナマエを紹介したのは。事前に最近近所に引っ越してきた人から世話になっているとは聞いていたし、随分とその人物について嬉しそうに話すエースの様子に一体どんな人なのかと思っていた。それがまさかナマエだったなんて誰が想像しただろう。
サボの記憶の中にいた姿より幾分か大人びた雰囲気を纏っていたナマエは自分と同じくエースたちよりも早くこの世に生まれてきたのだとすぐに合致した。あの頃に見せていた物哀しさが随分と薄まっているのと、エースやサボに出会っても特に変化が無いことから記憶が無いのだということもすぐに分かった。そして同時に、今のエースがナマエに抱く気持ちにも気づいた。
エースにも過去の記憶はない。けれども再び巡り合った彼女に、彼はもう一度己の愛情を注ごうとしている。照れたように笑う顔とナマエを見つめるその瞳が何よりもそれを物語っていた。

ああ…お前は、彼女の前だとそんな表情(かお)をするんだな。

慈愛に満ちた優しく綺麗な表情。この時並んだエースとナマエの姿を見てサボが泣いてしまいそうになっていたことなんて、二人は知らないんだろう。


「…ナマエさん」

ハンカチをカバンに仕舞ったナマエに声を掛ける。流した涙で赤く染まったそれと視線が合った。

「エースとまた出逢ってくれて、ありがとうございます」

もしも、いつかきっと、彼女が記憶を取り戻すことがあればこの言葉を伝えたかった。

「あいつの傍にいてくれて…ありがとうございます」

あの世界で命を燃やし尽くしたエースと代わって生き延びてしまっていた自分にナマエが投げかけた言葉。それと同じことを伝えようと、思っていた。
椅子に腰掛けたまま、深く深く頭を下げる。パタリと一粒だけ涙がテーブルに零れ落ちた。

「サボさん」

落ちた沈黙の中で名前を呼ばれて、ゆっくりとサボは下げていた頭を上げる。

「よかったらでいいんです。あなたと一緒に過ごした時のエースの話を…聞かせてもらえませんか?」
「───!」

あの時と、同じ台詞。でもその表情は全然違っていた。憂いの欠片もない、柔く美しい顔でゆったりとナマエは微笑んでいた。

「ええ、もちろん」

話すことはそれはもう山のようにある。何せ今のサボはエースと十数年兄弟として傍に居続けたのだから。でももう自分たちにはあの頃のように阻む時間も距離も立場も無い。いつだって語り合うことができる。
さて、まずはどの話から始めようか。これまでの懐かしき思い出を頭の中で巡らせながらそれができる喜びにサボもまた、瞳を細めて微笑んだ。


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