野郎どものコイバナ02【青黄・火黒・紫赤】 -青黄- 「あーあ、赤司っち大丈夫っスかねぇ」 「お前らほんといつからいたわけ?」 「えっちな話するとこのちょっと前から」 「ほとんど最初からだな」 黄瀬、黒子、赤司は偶然マジバの店の前で出会ったらしい。中に入ると自分の恋人たちがなにやら楽しそうに話しているため盗み聞きしようとして後ろの席をゲットしてきいていたのだが、黄瀬が恥ずかしさの限界を感じてつい割り込んでしまった。 「んなことより今からどうする?」 「わんおんわんしに行きましょ」 「…」 「わんおんわん!」 「………なんかむらっときた」 「俺みたいな声のでかいビッチ野郎にむらっとくるとかないと思うんで」 「なんだよ根に持ってんのかよ」 黄瀬は別に根に持ってませんけどとさわやかな笑みを浮かべて返答するが、これは根に持っていると青峰は確信した。しかもあまり怒らずに笑顔で否定しながら話にそんなに触れないという事はかなり深く根に持っている。つまり面倒くさいパターンになってしまったということだ。 「俺は心が広いんでそれくらいで怒ったりしないッス」 「…(すっげぇ怒ってる)」 「なんで全然気にしなくていいッス」 「黄瀬」 「はい?」 「1on1、やりに行くぞ」 「え、マジでやってくれるんスか!?」 青峰は普段使わない頭をフルに使って考えた。このままこの話題をしていても埒が明かないし、かと言って蔑ろにしていては黄瀬の機嫌はすこぶる悪いままだろう。こうなったらとりあえず機嫌を良くするためにいう事を聞いておこう。後々黒子や赤司に泣きつかれては被害が大きくなる。自分が下手に出るのはとても嫌だが、これ以上放っておいて被害が大きくなるのは避けなければいけない。自分の命は大切だ。 「お前がやりたいっつったんだろうが。行くぞ」 「え、あ、ちょっと待って!」 青峰が店から出て行き、黄瀬も机の上に大量に置いてあったごみをきちんと片づけてすぐに後を追う。 「…なんだよ、にやにや笑って」 「えへへ、別に何でもないッス。絶対ボールとりますからね!」 「……(ああくそ、我慢我慢。あとでぜってー啼かせる)」 -火黒- 「キセキの世代でも頭が弱い人の話は聞いちゃいけませんからね」 「お、おう」 「バスケの話くらいでしたらまだ分かりますけど、それ以外は意味わからない事ばかり呟いていると思うので全部スルーで」 「分かった」 「ということで、今日あの二人と話したことは忘れてくださいね」 「つーかそこまで念押ししなくても…」 火神君は分かっていない!と黒子は声を大にして言いたかったが、そこまで言うとよりくどい気がしたため押さえた。 黒子にとって火神は恋人として真っ白な存在であり、純粋であって欲しい。否、純粋なのだ。それなのにあんな下世話な話をする中に入れられてしまっただなんて好ましいはずはない。その話に火神が乗っているのであればまぁ仕方がないと目は瞑るが、明らかに戸惑ってどう話を逸らそうかと考えあぐねていた。これは後で青峰君に言っておかなければ、と黒子は心の中で思う。…その一方で青峰を少しだけ、ほんの少しだけ見習って強引になった火神も見たいと思ったのは頭を振って打ち消す。 「あの人たちはちょっと他の人とずれてますから。それを常識だと思って貰っちゃ困りますから」 「さすがにそれは思わないから安心しろ」 「それなら良かったです。それはそうと今日はどうします?」 「バスケしようぜ。あっちの方にコートあっただろ?」 「あります。行きましょうか」 身長は違うし歩幅も違う。しかし確実に二人隣り合って歩いてバスケットコートを目指した。そこでまた黄色い頭と青い頭の二人組がいて、黒子にとって喜ばしくない話をされるとはこの時予想もすることなく。 -紫赤- 「赤ちん、赤ちん」 「……」 「赤ちんごめんなさい、俺はしゃいでたの」 「…」 「久しぶりに会えたし、久しぶりに赤ちんのこと中学から知ってる峰ちんがいたから」 「…」 「いっぱい赤ちんのこと喋りたくて、それで」 紫原と赤司が会うのは三か月ぶりだった。三か月我慢して我慢して我慢してようやく東京で会うことが決まり、なんとか今日という日を迎えたのだ。紫原は大好きなお菓子を数種類忘れてきてしまう程浮かれていたし、実際一週間前から嬉しすぎて歩くたびにスキップをしたくなるほどだった。人にあんな話をされるなんて今思うと絶対に赤司は怒る。それが分からなくなっていたくらい嬉しかったのだ。 「道、こっちだっけ?」 「え?」 「駄菓子屋めぐり、するんでしょ?」 「う、うん。こっちに一つあるよ」 今日は駄菓子屋を回ってみたいという紫原の要望から、事前に何個かピックアップしていた店を回るという事になっていた。そういえばこの道はそのピックアップした一つの店に通じている。 「敦、僕はああいうことを言われるのはあまり好きではないよ」 「うぅ…」 「火神は違うけどキセキメンバーだし、そこまでは怒らない。だって事実を話していたんだから」 「でも赤ちんが好きじゃないならもう話さない」 「その従順さ、本当に敦はかわいいね。まぁでも、」 「でも?」 「僕も浮かれているから、今日はそんなつまらないことで怒らないよ」 普段見れないような薄らと笑う赤司の端麗な顔に紫原の心臓が大きく動く。 本当に本当に我慢したのだ。昨晩は楽しみすぎてあまり眠れなかった程だし、赤司が自分を甘やかせてくれていると分かって余計に愛しさがこみ上げてきた。しかも浮かれているのは自分だけじゃなくて赤司もだと言葉で伝えてくれて、どう処理したらいいのか分からないような気持ちになった。 「も〜〜〜〜さ、赤ちんさぁ……!」 「ん?」 「ほんと、好き」 「はは、僕もだよ」 こんな大通りで抱き着くのは嫌がられるかな、と思って赤司の服を掴むだけにしたが、その手は振り払われて宙に浮いた手は赤司の手に握られて落ち着いた。 「〜〜〜!」 「かき氷、食べたいな」 「なに味?」 「んー、いちご」 「じゃあ俺れもん」 大通り、平均より少し高い身長の男ととてつもなくでかい長身の男が手を繋ぎながら古びた駄菓子屋を目指す。 そんな夏の日。 |