幸せを感じる02【金勝】 電気は消した。乱雑に閉められたカーテンから少量の光が漏れている。坊が少し見えるくらい。ぴちゃぴちゃと俺が坊の肌を舐める音と、坊の息遣いと、近くを走る電車の音と。坊は俺にかなり長い時間触られとる。甘噛みしたり舐めたり触ったり。最初は擽ったそうにしていたが、今では熱を帯びた息が吐かれていてめっちゃえろい。膝小僧に歯を立てるとふるりと震える。少しずつ後孔慣らしていって、もう触ってへんとこはないやろって言う位触った。眉間のしわが深くなっているからそこにキスをして耳に手をかける。ピアスがとられているからしっかりピアスホールが見える。一つ、自分が空けたところがある。そこを舐めると坊はひぁ、と声を出した。 「み、み…っ」 「坊耳好きでっしゃろ?」 「いや、や…っ」 「めっちゃ気持ちよさそうなえろい顔してんのに?」 れろ、と舐めるとついに溜まった涙が零れた。 坊は耳が涙を流すほど自分が反応するなんて知らんかった。鎖骨に歯を立てられて、骨と歯が当たる小さい衝撃が気持ちいいなんて知らんかった。足の指を舐められることがこんなに感じることだなんて知らんかった。手首を舐められてぞくぞくするなんてそんな事知らんかった。 知らんことだらけやったのに、一つ一つ時間をかけて俺が教えていく。誰でもない俺が、坊に触れて坊にやったって、気持ちよくさせて、教えていく。それが酷く心地良い。戸惑う坊に優しく教えてあげる、すると素直にそれを飲み込んでくれる。 「ぅ、く、……ふ、」 「坊、腕退けてください」 さっきからずっと腕が口を隠したり目を隠したりしとる。もっと顔を見たいて思とる俺からしたらその腕はちょっと邪魔なもんになる。 「や、…や」 「ま、俺はどっちでもええですけど。目隠ししとった方が坊感じてくれるみたいやし」 押してあかんなら引いてみろ作戦成功。すぐに坊は腕を退かせた。俺が笑っているのが分かったんか、めっちゃむっとした顔しとる。 「あ、あほぉ」 「えー、作戦勝ちですわ」 上半身はタンクトップ一枚なのに暑い。ズボンが重い、指輪が重い、けだるい。それでも坊に触れたい衝動は抑えられん。後孔を慣らしている音が響く度に坊は震える。それに興奮する。我慢できんかった声が俺の耳を犯して、俺まで息が荒くなる。 「ぁ、きん、ぞぉ…きんぞ……」 「はぁい」 なんですか、と勝呂の手を繋いでここにいると告げる。胸のぴんとたった突起を甘噛みすると、俺の顔を起こそうと手が俺の顎に回った。 「ずっと触りすぎ……や」 「やって暗ぁて坊の事満足に見えへんから」 見えることは見えるけど、全部見たい俺にとってここは満足のいく光はない。まぁ、暗闇に目が慣れてきてるからこの距離やとほとんど見えるねんけど。 「っ見えとるやろ…」 「どうですやろなぁ」 「も……、んん…こっち、……触れ」 「坊限界です?」 「う、うっさいな!」 「そんなかいらしない事言うんやったら触らへんし、このままイくまで待ちますえ?」 自分でできん様に手は掴む。口は突起を含みじゅるじゅるとやらしい音をわざと出して味わう。坊自身はまだ全く触っとらん。やけどもう苦しそうに上を向いてるし、どろどろになっとる。 「や、ややぁ……!ぁかん……触って、ふー…っぅ、金造ぉ、」 自分に懇願する坊はなんでこないに俺の興奮を高まらせるんやろうか。そんな坊が愛しくて愛しくて顔が赤くなっていることが自分でもようわかる。いつも堂々としとる坊が、俺に懇願しとる、なんこれ、めっちゃ、クる。 「な、坊もっと言うて。もっと、俺にお願いして」 「ん……ぅん、ん…っきんぞ、やや、イきた…ぃ」 「もっと」 「ひ…っ、もぉ頼む、から……ぃ、イかせて、お願い、やからぁ!」 どこを触れてもびくびくと体が反応する。本当にそろそろ苦しいんやな。かなり長い時間触っとったしな、と上体を起こして少し高いところから坊を見た。 はぁはぁと荒い息で肩で呼吸して、涙をぼろぼろと零していた。とろんとした顔だけでも煽られるのに、それ以上の刺激的な坊の痴態で俺は我慢の限界を感じた。前戯が長いとは結構言われたことあるけど、まだ慣れてない坊には長すぎるくらいやったな。 「一回イっときましょうか。ね?」 「ん…」 「ほらまた顔隠したらあきません」 「せやけど…、」 坊の腕を自分の肩に乗せる。ここが定位置でっせ、と教えると、もうほとんどマッパな状態で見せるもん見せとるのに恥ずかしそうに俯いた。 「あかん、はよ坊のイき顔見たぁてゆっくりできんかも」 片手で坊自身を握り、上下に扱く。すぐにぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響き、それは坊と俺の耳をさらに犯す。 「坊気持ちええです?」 「あ……っ……く……っ、」 思っていた以上の快楽やったんか、坊の腕に力が入って、俺の肩に思い切り爪を立てとる。それでもそれを気にする余裕もないようで、喘ぐのを喉の奥で我慢しとる。 「顔背けんで、こっちみて」 「ふぅ、…っあ、あ、あ、」 「声殺さんで、俺の名前呼んでください」 「金造、きんぞ…ひ、ぁあ、あっ」 「坊、俺見てイって…そう、イってええから」 「ん、ぅ、ん……イく………いっ、!」 足が痙攣したように反応し、そのまま射精した。息がうまいこと出来ずにいるため、リズムを作るように頭を撫でるとそのままゆっくりと落ち着いてくれる。 「坊めっちゃやらしかった」 「ぁ、あほぉっ…あ、…きんぞ、肩、すまん」 「へ?ああ全然構いません。もっとつけたってください」 これからもっと気持ちええことすんねんから、と足を左右に広げると坊は小声で「恥ずかしぃて死んでしまえる」と言ったから笑ってしまった。彼にとっては重大なことやったんやろうけど、マッパ見られて触られているのにまだ言うとか、かいらしすぎるやろ。 先ほどから少しずつ慣らしているし、これだけどろどろなら大丈夫だろうと金造は素早くゴムをつけて入口に自分のものを宛がった。ライブ後の高揚感がまだ残る。アルコールも混ざって余計に高ぶる。 (優しくせんと、あかんねんけど…) 「……っぁ……ぅ、」 先端をいれると震える身体が可愛らしすぎて。まだこちらを使うセックスは全く慣れていないだろうに坊は執拗に解したからか、すんなりと受け入れてくれた。進みにくくなれば、昂ぶりをゆるゆると扱く。激しくしてしまうとまた達してしまうからと、ゆっくり小さな快楽しか与えない。 「はい…た、坊、全部入りましたえ」 「ん……、分か、る」 「ええとこ擦ってあげますから、楽にしてくださいね」 腰を進め、良いところを探し当てる。坊とは2回だけしか経験はないけど、良いところは分かっとる。坊の足を抱えなおしてあるところを擦るときゅうと俺のモンを離さないというかのように締め付けてくる。 「あ、あ!……く、ふ……っ」 「ここ?坊ここ気持ちええんです?」 「あかん……、や、ああ……」 明らかな反応を示す坊が愛しくて、俺はその一点を激しく攻め立てる。 いつも堂々としてて、自分が将来座主になることを考えて今から頑張っている。そんな彼を生まれた時から見とった。勤勉で、ストイックで、曲がったことが嫌いで、遊びなんて感じさせることがない彼が、自分の下で快感に溺れて喘いで啼いどる。自分を受け入れ、自分を感じて、自分の名前を呼んでくれている。幸せと同時に背徳感も味わうけど、坊を抱くとき常に付きまとうものなんやろうなぁって漠然と思う。汚してしまっても良かったんやろか、こんなことを教えない方が良かったんちゃうかな、その考えが脳裏に浮かぶ度に、すべて目を閉ざして見んかったことにする。今も、きっとこれからも。 「坊…っめっちゃ、きもちえ……っ」 「く、ふ…っぅあ、あ、あ…っや、あかん、あかんっ」 「大丈夫です、金造がここにおります」 「ん、きんぞ……っ金造…ぁっあ!」 肩に置いた手が抱きしめるように動いて一気に俺らの距離が縮まる。目と目が合ってそのままどちらともなく吸い込まれるようにキスをする。 「……っ、坊、坊…っ一緒に、イきましょ、ね!」 「!!ひっ、あ、や……っぁあ!」 中から一番良いところ抉られ、自身も絞られるように握られ、びくびくと身体を震わせた。その震えに呼応するように中がぎゅうと締め付けられ、俺もその欲を吐き出した。 「坊〜起きてます?」 「……起きとぉ」 「…大丈夫です?」 「そう見えるか?」 「ああん、ほんま堪忍!今日はほんまに調子乗ってまいました」 俺の興奮はなかなか冷めず、結局一緒に入った風呂でまで盛り、坊はくたくたで自分で歩くこともままならないほどになってもた。ばふっとベッドに飛び乗って坊の体を触ると「もうほんまに無理やぞ!」と念を押されてもた。 「お前、ライブ後やろ?なんでそないに体力あんねん…」 「坊見てたらこう…むくむくっと体力が回復しまして」 「なんでやねん…!」 ほんまに意識飛ぶかと思った、とげんなりする坊をにやにやとした顔で見る。なんやねん、と言うと別にと答えられたから坊は眉間にしわを刻んだ。 「意識飛ぶって。飛ぶ位気持ち良かったです?」 「よ……!」 「もー坊かわええわぁ。今度は飛ぶ位しましょうね」 「〜〜〜〜っ」 ふん、と枕に顔を伏せてしまった。もうそろそろ寝んとあかんしと俺も布団に入る。ちらり、と顔を少しだけ起こして坊がまた小声で言う。 「…次、は。手加減してや」 「……あかん、もっかいやりたい」 「あほか!これ以上は断固拒否や!」 「坊が可愛ええこというから!」 「しるかあほ!あほあほあほあほ!」 「そんなにあほあほ言わんでください!」 ばたばたとひとしきりベッドの上で暴れ回った後、事後の疲れもあってどちらともが本当に一歩も動けないほどになってしまった。その自分らの状態に笑いがこみあげていてくすくすとお互い笑いあう。 「帰るまでちょっと寝よ」 「そうですね」 「金造、おやすみ」 「はい、おやすみなさい」 こうして好きな人の顔を見て目を閉じられる幸せを、好きな人に最後に言葉をかけられる幸せを、寝ていても手のぬくもりが自分の中にある幸せを初めて味わいながら眠る。 そうして起きて感じる。 好きな人の顔を見て、好きな人に最初に声をかけて、手がそのまま握られている幸せを。 <了> |