全力疾走の水曜日(2/2)






近くの自販機に目当てのものはなくて、結局学校の向かいのコンビニまで走るはめになった。

思いの他時間がかかってしまって、もしかしたらもう帰ってしまったかもしれないと思ったけど、その心配はなかった。


コートで一心不乱にボールを打ち続けているブン太をみた時、心臓が変な音を出した気がした。




*






休憩か、ベンチに倒れこむように寝転がったブン太に近づき、後ろから声をかけた。


「ブン太っ!!」

「ふぁ……って冷たっ!!」

「へっへっへー」



ブン太は間抜けな声を出して飛び上がった。そのまま首のあたりをさする。

ちょうどわたしがアイスをあてがった所らへんを。



「ってむぎかよ!声かけろって!!」

「かけたじゃん今。」

「んもう!…なに持ってんだよぃ?」

「差し入れ。はい」



言った途端すごい笑顔になってわたしからひったくるようにアイスを奪ったブン太に思わず笑い声がこぼれた。



「ガ●ガリ君かよ〜」

「はあ?てめぇガ●ガリ君舐めんなよ?この美味しさで庶民の見方な値段なんだぞ?つうか文句あるなら食うなよ」

「いや文句ねえ!食う!」

「…わたしも食べる。」




それから2人ベンチに並んで、アイスを食べた。あれ可笑しいな。ガ●ガリ君は冷たくてひんやりしてて凄く美味しいのに、なぜだか凄い暑い。ひょっとしてまだ熱帯夜か?

肩と肩が当たったとき、心臓がまたきゅううって変な音を出した気がした。



「はあーうめえ!やっぱ疲れた時はアイスに限るよなー!」

「…ずっと練習してたんだ?」

「まあおれレギュラーだからなー」



なんてヘラヘラ笑うブン太にわたしも笑って、いつもみたいに馬鹿話して、そんでくだらない事に笑い転げて、そうすれば良かったのかもしれない。

でもこの時のわたしは、異常にうるさい心臓を落ちつかせることに忙しくて、ブン太の視線に気づかなかった。




「おれ、むぎに言いたい事あんだけどさあ、」

「んー?」

「ずっと言おうと思ってたけど、今言うわ。」

「なにさ?」

「おれ、実はずっと前からさ…」

「………」




いっつもヘラヘラ笑って馬鹿みたいに遊んで騒いでイタズラして。自信家で調子乗りで、自分で自分を『天才的』とかいってるナルシストな糖尿病予備軍みたいなやつだけど、ほんとは誰よりも努力家でがんばり屋さん。

そんな君に伝えたいこと。



「むぎのこと、」「あ、」




でも、今この気持ちに気づいてしまったら、残りのマネージャー生活を楽しめないような気がして。

これまでみたいに君と、馬鹿やって騒げなくなる気がして。




「もう7時過ぎてんじゃん。そろそろ帰らなきゃ。」



だから、わたしは自分のこの想いに気づかないふりをする。

想いの名前も、ぜんぶこの気持ちと共に胸の奥底にしまって忘れよう。


想いはこれでデリートだ。



「…むぎ、」

「ブン太もそろそろ帰りなよ。明日倒れちゅうよ?」

「…おれが倒れるなんてダッセーことする訳ねーだろぃ?」

「うっわ心配してあげたのに!」

「ていうかそもそも何でこんな時間にガッコいんだよ?」

「忘れ物。取りにきたの。」

「なにそれダッセー!!」

「やかましい!」




ほら。ナチュラルに会話してるじゃん。こうやって何時もみたいに馬鹿騒ぎしよう?

めんどくさいのは一切抜きでさ。




「じゃあわたし帰るわ。」

「おう!おれももう少ししたら帰るぜー」

「頑張ってね。自称天才さん」

「自称じゃねーし。」

「ふふふ。それじゃあまた明日













ばいばい。」






不意打ちを食らって

(みんなで楽しくいたいから、)
(いつまでも笑っていたいから、)

(だから、ばいばい。)








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