「あのね、なまえちゃん。実は私の先輩になまえちゃんのこと好きって人がいてね。」

「それで私、頼まれたの。協力してくれないかって。で、いろいろ相談も受けてて…」

嫌いだった。

告白してしまえばいいのに、断られるリスクを少しでも減らそうと周りを利用しようとする人達が。

「それで今日…告白するって言ってたんだけ ど…。でも…、私、その人のことが好きで。」

「上手い具合に断ってくれないかなあ?」

嫌いだった。

気持ちを伝えてしまえばいいのに、勇気もださすに他人の思いを明らかに無視した理不尽な頼みをする人達が。

「お願い!なまえちゃん!」

大嫌いだった。

皆、みんな。

まわりくどいにも程がある。

そんなの勇気のないただの意気地なしじゃん。

…なんて。

そんな人達を見かけるたびに、私はいつもそう思ってた。

その感情が本気なら自分自身で努力するべきなのに。

…そう、本気なら、ね。

でも、そんな想いは決して口に出せず、

「うん。いいよ。」

なんて笑って言う私の方が、本当の意味で意気地なし。

結局私は、そんな私自身が一番嫌いだった。

「なまえ!どうだったのよー?」

「な、なにが?」

放課後。

ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべる友達に、私は引きつった笑みを返す。

なぜって、彼女の言いたいことは何となく分かっているからだ。

「なにがって、決まってるじゃない!告白よ!告白!」

ほーら、やっぱり。

…自分で言うのも何だけど、私はどちらかといえばモテるほう…だと思う。

まだ恋というものに興味が薄かったり恥ずかしさがあったりした中学時代とは変わった。

高校生になってからは特にそれが顕著に周りにあらわれたんだ。

クラスの子はもちろん、他のクラスの子達や話したこともない人にまで呼び出されて告白されたり。

でも…

「断ったよ。もちろん。」

「またあ!?」

告白は全て断っている。

「あ、もしかしてまた誰かに先に頼まれたの?告白断ってって。」

「頼まれたのは事実だけど、そもそも付き合う気なんてなかったよ。」

「えー!?」

「もったいない!今日告白してきた先輩、すごくイケメンで人気あるのに!」…なーんて、納得がいかないようでブツブツとつぶやいている友達。

それに苦笑いをうかべながら、頭の片隅でぼんやりと思ったことをつぶやく。

「皆さ、私のこと、好きじゃないと思うんだよね。」

「…さっき告白されたばっかりなのに、何言ってんのアンタ。嫌み?」

「いやいや、そういうことじゃなくてさあ…。」

だって今日告白してきた人なんて一回も話したことない人達だった。

そんな人から「好きです」なんて言われて「わあ嬉しい!」ってなるの、おかしくない?

私はまず「え、なんで?どちらさまですか? 」ってなる。

話したこともないのに、なんで私のことが好きなんだろう。

私のなにを好きになったんだろう。

……私のこと、何も知らないくせに。と、思ってしまう。

(だって、ね、)

(私のこと一番良く知ってる私は)

(自分のことが大嫌いなのに)

「結局は、見た目が自分好みってだけで、さ。中身なんてどうでもいいんじゃないか、なんて。」

「あーもう、嫌みにしか聞こえないわー。モテる女は違うわねー。」

「だから違うって!」

唯一本音をぶつけられる友達は私のこの気持ちは全然分かってくれなくて困る。

結構本気で悩んでるのになあ。

「アンタそもそも、彼氏作る気ないでしょ、それ。」

「ううん。良い人がいれば、全然!」

「良い人…じゃあ、シルバーくんとかどうな の?席替えしてからたまに話してるでしょ?何よりかっこいいし!」

「彼とは別に…事務的な会話してるだよ。宿題やった?とか教科書みせて?とか。」

「…仲良くなろうって気はいっさいないのね 。今の口振りでよく分かったわ。」

「えー?あ、ねえ。それより今日の授業で分からないとこあったんだ。教えて。」

「しょうがないわねえ。」

今の私にとっては、そんなドキドキしない恋なんかよりも、勉強とか部活とか今みたいに友達とおしゃべりしてる時間とか、そういうことの方が大事で。

「なまえが人を好きになる日はくるのかしら。」

「あはは…」

友達のつぶやきに苦笑を返した。

そんなの私のが知りたいよ、なんて。

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