「はあー!やっぱ人生には解放感がなくっち ゃな!」 広々とした屋上…青空の真下で、大きく伸びをするゴールド。 「私、授業サボったの初めて。」 「サボリじゃねえよ。体調不良による欠席だろ?クリス、信じやすいから上手いことやってくれるって。」 「もしかして私のこといい子って言ったのって、サボったことがないから?」 そうだとしたら彼以外の大多数の人はいい子に分類されるだろう。思わずため息をつく。 でも、彼はちげえよ、と首を横にふる。 「人に対する考え方が、いい子って言ってんの。」 「…いい子じゃない。上辺だけだもん。」 さっきいとも簡単に私の作り笑いを見抜いたぐらいだから、分かっているくせに。 当たり障りの無いように関わっているだけ。 唯一信頼した子達以外に興味はなくて。本音で話したことなんて、一度だって、ない。 「上辺だけだって、周りといざこざ起こさねえためだろ?」 「そうだけど…」 「ほらな。それとお前、俺に対しては最初以外すげえ冷たく当たってたけどさ。それだって、真面目に噂信じて、動機不純だって思って、勝手に俺に対してイメージもったからだろ?」 「噂って、」 「俺がいろんな女の子に声かけてるっつーやつ。」 「!知ってたんだ、自分の噂…」 「これでも周りの情報には敏感だからな。嫌でも耳には入ってくる。」 「…。」 なんだか全ての考えを見透かされているよう で、私はまた黙り込む。 「確かめもしないで信じちまうあたり、いい子で、真面目で…バカだ。」 彼は構わずそう語る。 「…じゃあ、嘘だって言うの?その噂。」 「噂に決まってんだろ。俺は見ての通り分け隔て無く人と話すからそれ見た周りの奴らが勝手に女好きっつーイメージもってるだけだっつーの。」 妙に納得してしまった自分がいた。 確かに彼は誰とでも話すし、いつだって明るいし。 …彼のその性格に嫉妬した誰かが根も葉もないことを言い出して、それが大きくなってしまった可能性だって十分にある。 「俺、こんな紳士なのに失礼な噂だよな!」 「急に教室に押しかけてきた初対面の相手に仲良くしようなんていう人だもん。変な噂がたつのも当然だよ。」 「はあ?なまえ、俺があれいつもやってるとでも思ってんの?」 「だって私のときそうだったじゃない。」 ゴールドははあとため息をついて、そして、少し目を細めて笑って言った。 「あれは、なまえにしかやったことねーよ。」 その言葉が嘘か本当かは分からない。 目を見開いて固まったままの私に、ゴールドはさらに続ける。 「…一応念押しで言っておくけど、仲良くなりてえって言ったのは、友達としての意味じゃねえから。」 心なしか彼の頬が赤く染まっている気がして。 そんなの気づいてた。 それでも、改めて言われると今のゴールドの様子なんて気にする余裕もないくらい、胸がギュッとしめつけられて…なぜか少しだけ、自分の胸の鼓動が早くなっている気がした。 「なんで、」 声をしぼりだす。 最初の段階で気づいてたくせに聞けなかったことを、今、聞きたいと思っている気がする。 今までずっと好きと言われることが嫌いだった。 だってそこに本当の気持ちがあるとは思わなかったから。 でも…少なくとも私の気持ちに気づいてくれた彼なら、……少なくとも、 「なんで、私なの?知り合ったばっかりなのに。つい最近、話したばっかりなのに。」 少しだけ、信じられる気がして。 「本っ当、根っからの真面目だな!クリスそっくりだ!」 「こっちは真剣に聞いてるんだからね…!」 「じゃあ聞き返すけど、明確な理由がねえと人に好意持っちゃいけねーの?ずっと一緒にいてあの時こうしてくれたのが良かった、とか具体例でも挙げればいいわけ?」 ゴールドの目はひどく真剣だった。 「…。」 「…。」 答えずにいると沈黙が流れる。 たぶん私が答えるまでずっと待ってるつもりなんだろうこの人は。 「…そんなことはないと思う、けど…」 私の言葉にゴールドは満足げに笑う。 「だろ?へへっ、誘導尋問成功!」 「誘導尋問って…!」 「だって少し前のお前なら絶対こういうの嫌だっつってただろうからな!はー、なまえの意識が変わった今なら、やっとぶっちゃけられる。」 「ぶっちゃけるって、何が、」 「なあ。」 こっちが言い終える前にゴールドが遮った。 「好きになったきっかけは、一目惚れだっつったら…怒る?」 怒るわけが、ない。 だって、ぐるぐるぐるぐる、頭の中でいろいろ回って。 喉が、胸が、キュッとしまるような感覚に襲われて。 おかしくなりそうなほど、ドキドキしていて。 頬が、熱くて。 つまり恋愛なんてものは (何がきっかけで始まるかなんて分からない) (一目惚れなんて言葉、大嫌いだったはずなのに) (私は今、こんなにも鼓動が早い) << >> |