気がついたら、ゴールドがジッとこっちを見てた。

「…なに?」

ちょっと訝しく思いながらも聞き返せば、彼は少し目を細めて何事もなかったかのように笑って言う。

「もちろん、人生相談も受け付けてるからな!恋愛相談とか!」

「…。」

「だから、なんだよその顔。」

もう相手したくない、なんて思って、シルバーくんに助けを求めようと隣を見たけど、いつの間にかいなくなっていた。

トイレにでも行ったのだろうか。…それとも、逃げたのだろうか。

うーん。なんか後者の可能性のが高い気がする。

「今、俺となまえの仲良し度っていくつだろうな。」

「限りなくゼロに近いんじゃない?」

「お前、とことん嫌ってるよな、俺のこと。俺はこんなに友好的に接してやってんのに。」

ゴールドがふてくされて頬杖をついた。

嫌ってはいないけど、さ。

ただ…仲良くなるのが、億劫なだけで。

だって。

「……どうして、私なの?」

ポツリ。つぶやく。

ゴールドは「あ?なんか言ったか?」なんて聞き返したけど、私は何でもないよと首を横にふった。

じとーっと見てくるゴールドに、仕方ないから笑顔を返す。何でもないように、装う。

すると……

「…。」

「いっ…!?」

すごく冷めた目のまま、ゴールドが私の頬を ぎゅっと引っ張る。

痛い!という思いを込めて睨むと、しばらくしてその手は離れた。

「なっ、にすんの!セクハラ!というか痛い !!」

つねられた部分をさすりながら言う。

すると彼は、悪びれた様子もなくように「あ、わりい。」と言って、そして続けた。

「気持ちわりい顔してたから、つい。」

「き…!?」

うわあ。思いっきり殴りたくなった。

女の子に言っちゃいけない言葉でしょそれ。

いっそ頬を平手打ちでもしてやろうかという考えが一瞬頭をよぎったとき…

「なまえ自身は全然笑ってねえのに、そんな顔すんの、気味が悪い。」

「え…、」

思わずびくりと反応してしまう。

だって、だって。

彼の言っていることは図星で。

(周りとの調和を守るために必然的に身体にしみついてしまった、)

(私の偽りの、笑顔)

自分からは何も言えず(驚きすぎて言葉が全然出てこなかった)、私はただ黙り込む。

彼の次の言葉をおびえながら、待つ。

でも、ゴールドはニッと笑って

「意外とよく見てるだろ?お前のこと。」

なんて言ってのけた。

「へ…、」

軽蔑されると思ってた。

呆れられると思ってた。

かわいそうに思われると思ってた。

周囲に合わせて、笑いたくもないのに笑っている私のこと。

でもただ目の前の彼は笑っていて。

「お。惚れた?」とか冗談も言っていて。

私のこと、ちゃんと見て、気づいて、そして、受け入れてくれた、っていう事実がじんわりじんわりと心に染みてきて。

「おーい。なまえ?」

一瞬。ほんの一瞬。

この人なら私にも分からない、私のこと…分かってくれるかも、なんて。

「…っ、惚れないよ!バカ!」

……バカは私だ。

何考えてるの、本当に。

「そうそう、その顔。まだムキになってる顔のが自然体でマシだなー。」

手を頭の後ろで組んで、彼はケラケラと笑う。

その態度に、私は思わず眉間にシワを寄せた。

「…あ。分かった!」

休む間もなく、そして、何の前触れもなく、ゴールドがそうつぶやく。

もうさっきのですっかり気分をそこねた私は返事してやらなかったけど、「いやー、なまえのこと付きまとってたかいがあったぜ!うんうん!」なんて1人で何か頷いてる。

そしてまた彼は、ニヤッと。

全て分かりきったような、憎たらしい笑みを浮かべた。

「お前さ、クリス同じタイプだよな、きっと。」

「…私はクリスちゃんみたい優等生でもいい子でも真面目でもない。」

「いーや。少なくとも“いい子”だぜ。ちょーいい子。」

「…。」

何で他人に、しかも最近知りあったばかりの奴に断定されなきゃいけないの。

私の気持ちなんて知る由もない彼は、ふと窓の外を眺めて、心ここにあらずといった感じでつぶやいた。

「なまえさあ。」

「…。」

「屋上、行ったことあるか?」

「あるわけないでしょ。だって屋上って立ち入り禁止じゃない。」

「…うし。決めた。行くぞ!今から!」

「へ!?このあと授業、」

言いかけた私の手を取ってゴールドは走り出した。

必然的に私の足も進んで…

「お!クリス!ちょうどいい!なまえが具合悪いっつーから保健室行ってくるわ!」

廊下ですれ違ったクリスちゃんにそんなことを言い放って、彼はますます速度を上げる。

少し遅れて、「病人走らせちゃダメでしょ! !」なんてクリスちゃんの声が聞こえてきたけど、あっという間に聞こえなくなった。

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