「おい、なまえ。聞いてんのか?」 「え、あ、うん。聞いてたよ。」 本当は全く聞いてなかったけどね! にっこりと笑顔をつくってみせる。 すると彼は盛大なため息をついた。 「…お前さ、俺と仲良くなる気ねえだろう。」 「え、」 ズバリ。本心を見破られてドキッと胸がはねる。 「会話続ける気なさそうだしさ。俺の方、まともに見ねえし。図星だろ?」 「あはは、ごめんね。私、人見知りが激しいんだ。」 あながち間違いでもない言い訳をすれば「へー。」と興味なさそうな返事が返ってきた。 「んじゃ、なまえが少しだけこっち意識したとこで、もう1回聞くぞ。」 「へ、どういう意味、」 「いつもさ、何してんの?」 ニッと憎たらしいほどの笑顔で聞いてきた彼。 ためされてる。たぶん。私が本当のことを言うかどうか。 彼と仲良くする気があるかどうか。 「…。」 一瞬の沈黙のあと、私は笑顔で言う。 「いろいろだよ。いろいろ。」 「…頑固だな、お前。なんでそんなに俺のこと拒むわけ?話すぐらいいいだろ、別に。」 「別に、拒んでるわけじゃなくて…ただ苦手なだけ。」 「苦手?俺のことが?」 そう苦手。 人のこと何も知らないくせに仲良くなろうなんて近づく軽い人は。 戸惑いがちにこくりと頷けば、彼はがしがしと頭をかく。 「…。」 「…。」 沈黙が流れる。 傷つけちゃったかな…。 でもこれでもう彼が私に話しかけてくることはなくなるよね。 一件落着、だ。 「……たく、俺のこと全く知らねえくせに勝手に苦手意識もつなよ!」 「いたっ。」 彼は笑顔でそう言って、パシッと軽く私の頭をはたいた。 ちょうどそのとき、タイミング良く予鈴が鳴る。 「じゃー、スローペースでいくとすっか。」 「へ…、」 「俺、なまえとぜってぇ仲良くなってみせっから!」 「え、ちょ…」 「それとアナタとか言ってたけどさ、“ゴールド”でいいから。…以上!」 私が反論する間もなく、そう言って彼は走り去っていった。 「…。」 叩かれた頭に手を当てて、思う。 ……変なやつ。 私だったら自分を苦手って言ってる人と仲良くなろうなんて思わないよ。 性格悪いやつ、って思われて終わると思ったのに。 「……。」 “俺のこと全く知らねえくせに勝手に苦手意識もつなよ” よく言うよ。 だったら何で、私に声かけたの? 私のことだって何にも知らないくせに、さ。 「なまえー!なあ聞けよ!俺のクラス、今日の体育自習なんだぜ!やりたい放題!やったぜ!」 「そうですかー。よかったですねー。」 「お前、最近俺の扱いひどくね?もっと優しく扱えよな。」 「なんで?ゴールドに優しくしたって、私に何の得もないもん。」 「お前なあ…。」 あれから。毎日毎日飽きないのかってぐらい、ゴールドは昼休みに私の教室に来て話しをしてく。 まあどれもがくだらない話で私は適当に相づちをうってるだけなんだけどね。 ゴールドもゴールドで彼の性格からして別にひどく傷つくこともなくて受け流すから、最近は私も今みたいに思ったことをズバズバ言ってる。 …いろいろ気をつかわなきゃいけない上辺だけの関係よりかは楽だけど。 「お前、また来てるのか。」 隣から呆れたような声がして、ふと顔を上げればシルバーくんが席に着いたところだった。 あ、そういえばゴールドとシルバーくんとクリスちゃんは、去年クラスが同じだったとかゴールド言ってたような…。しっかり聞いてなかったからうろ覚えだけど。 「よおシルバー!お前、いいよな、この席。なまえと喋りたい放題じゃん。」 「俺はお前みたいうるさく喋りかけたりはしない。」 「うっわ。つまんなくねえの、なまえ。こんな真面目で静かな奴が隣の席でさ。」 「シルバーくんはすごくいい人だもん。教科書忘れたら見せてくれたりするし、分かんないとこあったら教えてくれたりするし。」 「ぷっ!お前のいい人の基準低!!」 ゴールドに盛大に笑われた。失礼だ! 「第一、俺だって勉強教えるぐらいできるぜ?」 「嘘でしょ。」 「お前…その顔ムカつくな。次から分かんないことがあったら俺に聞けよ。完璧な説明聞かせてやるよ。」 「やめとけ。コイツに頼ると見返り求められるぞ。」 「え…見返りってお金?」 「まさか!ギャルから金をとろうなんて、この俺様がするわけねーだろ?そうだなあ…なまえなら友達プライスでデート1回でいいぜ!」 「うわ。最低。」 「同感だ。」 「おい!」 表面上は笑いながらも、心の中には妙に冷たい感情が流れていた。 どうせいろんな女の子にそんなようなこと言ってるんでしょ、って。 所詮皆、そんなものだよね。 恋愛ものの小説とか映画みたいに本当に心から大好きって思える人に出会えることなんて、ないと思う。 どうせ相手が誰でも同じことなんでしょ。 皆、中身なんてそんなに見ないもんなんだよね。結局。 やだ、なあ。 なんか…気持ち悪い。こういうの。 << >> |