「で、どこが分からないの?」

「んっとね、」

ガサガサと教科書を引っ張り出して、優秀なお友達に聞こうと思ったとき…

ガラガラガラ!!!

そんな派手な音をたてて、教室の扉が開いた。

「「え、」」

放課後の、私達の他には誰もいないこの教室。

私も友達も唖然としてそっちに目をやる。

「おっ!いたいた、“なまえ”!」

ビシイッと人差し指が私の方に向けられて、思わずひるむ。

私の名前を突然呼んだその子は、全く見覚えのない子だった。

なに?誰?

私が怪訝な表情をうかべているのに関係ないといった様子で、彼は楽しげににんまりと笑う。

「なあ!友達になろうぜ!」

「………へ?」

まさかの言葉。少し長い沈黙のあとに、私の口から出たのはそんな気の抜けた声だった。

「だから、」

彼がもう一度言葉を口にしようとしたとき、また扉がガラガラと、さっきよりも小さな音をたてて開いた。

「ゴールド!やっぱりここにいた!!」

現れたのは、クラスメイトで学級委員のクリスちゃんだった。

「んだよ、クリス。今いいとこなんだから邪魔すんなって。」

「いいとこって…あれだけ、なまえちゃんに声をかける前に私が確認とるからって言ったのに!アナタ、自分の見た目分かってる?ガラの悪い不良よ、不良!」

「はあ!?この俺様に向かって不良!?ざけんな!こんな紳士、なかなかいねえぞ!」

「ああもう!なまえちゃん、ごめんね、何もされてない?」

「あ、ああ…うん。平気。」

「ゴールド!アンタは先に帰ってて!まず私が説明するわ。」

「んだよ、これだから堅物学級委員は…」

「ゴールド!!」

クリスちゃんがそう怒鳴ると、彼はへへっと笑みをうかべて教室を出て行った。

「もう…!」と言いながら、私に向き直ったクリスちゃんは、律儀にも両手を合わせて「ごめんね」と私に謝って、続けた。

「あの人、隣のクラスのゴールドっていうんだけど、知ってる?」

「ううん。」

ふるふると首を横にふれば、「アタシ、知ってる!」と変わりに友達が答えた。

「不良みたいで、チャラいって噂がたってる子でしょう?」

「え…!」

友達の言葉にクリスちゃんは目をぱちくりさせて、次の瞬間ぷっと吹き出した。

「全然そんなやつじゃないんだけどね。」

優しげな笑みとともに言う。

あ、もしかしてクリスちゃんってその人のこと好きなのかな、なんて考えが一瞬頭をよぎる。

彼女はにっこり笑ったまま、続けた。

「ゴールドがね、なまえちゃんのこと気になったみたいで、同じクラスだろ?紹介しろよ!ってうるさくて…。」

「そう…なんだ。」

それを聞いて、クリスちゃんにバレないように友達がこっそり耳打ちをしてきた。

「数多くいる女子の中で、今度はアンタに狙いを定めたってことね。」

「……。」

やっぱり。またか。

私のこと知らないくせに。

「悪いやつじゃないから、今度アイツが話しかけてきたら相手してあげてくれないかしら?」

隣では友達が「変なのに目ぇつけられたわね。」なんてポツリとつぶやいた。

本当に。心の中で深い深いため息をつく。

でももう、次の瞬間にはにっこりと笑顔を作って、彼女に告げた。

「うん。いいよ。」

こーゆーときは当たり障りのないことだけを話してクリスちゃんの顔も立ててあげて、かつ、向こうが諦めるのを待つのが一番手っ取り早い。

特に彼…ゴールドくんとか、私は絶対に仲良くなれないタイプだと思うから(だってちゃらいとか言ってたし)仲良くなるのなんて無理だし。

適当に話して、こっちにその気がないことを感づいてもらおう。

…なーんて、軽い気持ちでいた私がバカだった。

「なまえってさ、いつも何してんの?」

翌日の昼休み。

教室にズカズカと入ってきて(違うクラスなのに)何のためらいもなく私に「ちょっと話そうぜ!」なんて言ったゴールドくん。

自己紹介とかするのだろうか、なんて頭の隅で考えていた私は予想もしていなかった言葉 にえ、と思わず聞き返してしまった。

「え、じゃねえよ。学校終わったあと、なにしてんのって。」

「…まあ、いろいろ。」

少し上から目線なその言い方に、ふいと目を背けて返す。

そんな仲良くもないのに、なんで私生活のこと話さなきゃいけないの。しかも、なんかえらそうだし。

こっちは仲良くする気なんてないのにさ。

「そのいろいろが聞きてえんだけどなー。」

「…。」

「…。」

「…。そういうアナタは何してるの?」

沈黙に耐えられなくなって渋々彼に聞く。

ちゃらいっていうもんだから、女の子が話しやすいようにいろいろ配慮してくれるものだと思っていたけどどうやら違うみたい。

私の言葉に彼は待ってましたと言わんばかりににぃっと笑った。

「俺はゲーセン行くことが多いな!最近はまってんのはシューティングゲームでさ!お前 、知ってるか?こーゆー銃みてぇなやつで敵をうつやつ!」

「…知らない。」

のりのりで説明してくれてるのに悪いけど、そういうのにあんまり興味ないんだよね。

でもゴールドくんは「だよなー」なんて、全然気にしてないみたいな反応だった。

「お前、クリスみたいに真面目そうだもんな!ゲーセンとかよらねえよなあ。いつも真っ直ぐ帰るだろ?」

「ゲームセンターによるのはプリクラとるときぐらいかな。」

「やっぱし。そうだ!最近のプリクラってすげーよな!俺、この前ダチ公ととったんだけどさ…、」

ペラペラと勝手に話し始めた彼の話を聞き流して、ぼんやりと考え事をする。

次の授業は体育だからちょっと早めに移動して着替えなきゃ。あーあ、外暑そうだなあ…。出たくない…… 。 体動かすのは好きだけど、授業での体育って私、嫌いだな。

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