番外編 | ナノ
3

考えるより先にってこういう時に言うんだねってくらい
反射的に口からでていた。
流石の流君も驚いた様子で


「…あ?」


いや、あんまり驚いてないかも…。
流君は、冷蔵庫を開ける手を止めてこっちに視線を送った。


「え?あっあの…さ、先に牛肉取っていい?」


咄嗟にそう言って、返事を聞かずに冷蔵庫を急いで開けると牛肉で隠しながらチョコを冷蔵庫から出す事に成功した。
そのまま、身体で隠すように後ろへと回す。

良かったー……

と、思ったのも束の間だった。そんなに簡単に行かないのが現実である。
不意に流君を見ると、案の定『何隠してんだ』と安易に言われてるような視線がオレに刺さってきていた。


「ぎゅ、牛肉だよ?」


苦し紛れにそう言って、「あはは…」と笑ってみると、流君は体ごとオレの方に向けてゆっくり煙草のけむりを長く吐き出した。
沈黙。わかるのは自分の心臓の音と煙の匂いだけ。


「あ、あの。…えっと」


その数秒間で、オレが白状する気になるのは容易だった。


「き、今日。バレンタインだって聞いたの。だから作ってみたんだけど…。普通のミルクチョコで作っちゃって甘いし自分で食べようと思って…えへへ」


持っていたチョコレートの箱をゆっくりと前にだす。青の小さい箱には、丸いチョコが銀紙に包まれて4個ほど入っている。初めて作ったそれは少しだけ歪。
段々居たたまれなくなって目線が下がっていく。
そして少しの沈黙。
流君の様子は伺えないから
耐えきれずにオレがバッと顔を上げた。


「だ、だからねっ何でもないの。来年頑張るし!」


これは本当にがんばる!来年こそは!と内心意気込んんでいると、不意に腕が伸びてきて持っていた箱の中からひと粒抜き取って歯で銀紙を外した。
なんだろ?と目をパチパチと瞬かせていると、


「─んぐっ」


剥いたチョコをオレの唇に押し付けて口の中に押し込こんだ。
急に入って来たチョコと突然の行動に「?」を飛ばしながら取りあえず、舌の上でチョコを転がして味わう。
……うん。ちゃんと柔らかくなってる。
チョコは、舌で押しただけでとろけた。ココアパウダーの風味とチョコの中に細かくしたアーモンドが香ばしい。
数秒味わい、不思議に思って見上げると流君は煙草を口から離して顔を近付けた。


「ん?…むっ─」


絡み付くような口づけ。
一瞬頭が真っ白になって開いた口を流君の舌が無遠慮に口内を巡らせる。反射的に頭を引こうとして、顎を捕まれた。


「…んぅ…ン…、ぁ」


腰を引き寄せられてより深く口付けされ、ついて行くのが精一杯だったオレは流君の服をギュッと掴む。舌の絡まる音が鼓膜を支配した。


「─んっ…、…っふ」


どっちの物かもわからない唾液と溶けたチョコが口の端から溢れ落ちるとスッと流君の唇が離れて行った。


「……あま」


そう眉間に皺を寄せながら一言いって、カリッとアーモンドを噛むと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してソファへ戻って行ってしまった。

オレはその場にストンと力なく崩れると、乱れる息を吐き出して顔のアツさが全身にまわるのを感じていた。


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