番外編 | ナノ




「お前ぇは俺が言わねぇとなんもやらねぇからなァ」


日向さんが呆れたようにわざとらしく溜め息をついた。それに流君はテーブルに怠そうに肘を付いて片手で携帯を弄っている手を止めず全くの無視である。

只今、日向さんのお屋敷にお呼ばれして高そうな漆喰のテーブルを挟んで話していた。

話してるって言っても殆ど日向さんが一方的に話してるだけなんだけど。
相対してるだけでも、2人とも映画のワンシーンみたいでかっこいい。
いつも通り流君は
全くこの和室に馴染んでないけど…。

まぁそんな事より
なぜなぜ、日向さん邸にお邪魔してるかというとですね…。

今日の午前9時。流君とまったりゴロゴロして過ごしていたら、流君の方に日向さん直々にお電話があったのですよ。

流君は数回完全無視してたんだけど、オレにはそれに耐えられる精神は残念ながらなく、慌てなから流君に通話を促した。
何だかんだで日向さんに呼ばれると色々と無理難題を言われてる記憶しかないからだと思うけど。

日向さんって本当に凄い人だ…。

…えっと、それで
その内容が何やらオレも連れて来い!みたいな事言われてるみたいで、もう日向さんの家にはちょくちょく行けるようになってたから、急な用事だと悪いし全く動かない流君を一時間掛けてなんとか出かける事ができたのだ。

そんな訳で今に至る。

いつも思うけど、オレって空気…。

あ、でも

なんか、この構図見たことある。あれだ。

"娘さんを僕に下さい!!"とかとかだよね!

そんな構図だと思ういつかテレビで見た気がする。
そこで土下座して……
流君が土下座……

そ、想像できない

それならオレが土下座して、日向さんに流君を貰うの方がしっくり行く。

いや…その所の娘役って、流君になるんだよね?
……う、うん。
幸せに出来る自信がない…ですごめんなさい。

自分で思った事なのにちょっと勝手に気まずくなって、時折カコンカコンと外から聞こえる音へと気を逸らしていたら、前から名前が呼ばれた。


「…?」


全く話を聞いてなかったので少し首を傾げる。


「指輪だ指輪。欲しくはねぇかぃ?コイツとペアのよ」


そう言ってキラリと光る左手を軽く振った。


「指輪…?」


あず君と日向さんの薬指には、いつも同じ指輪が嵌められていて、あず君が言うには"別に意味はないものだが、暇な時間が少しだけ減る"らしい。


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