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それは何時だったか、そんな少年にも転機というものが来たらしい。
その日、気が触れてしまった、或は何かの思惑を持った人間が少年の元へ訪れていた。否、訪れたといのが語弊だった事は直ぐに分かった。
目が虚空をかくような虚ろな上、不自然に痩せた姿でふらふらと少年の前を歩いて来る。恐らく、前者だろう男。
一歩、一歩と近寄り来るその男が少年の目前へと立った時、男はぶわりと懐から鋭利なナイフを取り出した。霞む太陽がキラリと反射して、その存在を主張している。
それでも目を合わさない少年に、狂った笑みを浮かべながら男はその腕を振り上げた。
ここでは、
それが“ルール”
空を裂くような音が余韻のように何度も鼓膜を震わせて、火薬の臭いと鉄のような生々しい臭いが辺りに漂った。それも一瞬で、同じような周囲の異臭が後から掻き消す。
大袈裟に飛び散る黒い雨が顔にかかるのを、煩わしげに眉間に皺を寄せた少年は、まだ火薬の余韻のある黒い塊を無造作に捨てた。辺りに重みのある音が静かに響く。
そんな時だった――
「面白そうな餓鬼見つけたな」
何処からともなく現れた、年齢不詳の大男。
この場所には不似合いな豪華な服装と匂いのキツイ葉巻を加えたニヤリ顔が、黒を被った少年に怯む事無く久しく聞かなかった日本語を喋った。
「なぁお前よォ。俺んとこに来ねぇかい?」
男が、品定めをするような瞳で顎に手を添えたまま言った
少年が特に何も思う事もなくもう一度銃を拾った時、更に男は口を開く。
「ンあ?…そうだな。気に入らなかったら俺を殺してもいいぜ」
その男は冗談を言うように言った。そして、おまけのように付け足した。
「まぁ、俺の方が気に入らなかったらお前を殺すがな。どうだ?ここに居てもこっちに来てもそんな変わる事じゃあねぇが。面白れぇ事、あるかも知れねぇってのはこっちの方が確率は高い」
クククッと低く唸る口元とは裏腹に男の瞳は生きている。
だが、表情一つ表さない少年が言葉を返さないのを不思議に思ったのか、その男は顔をしかめて腕を組んだ。
「あん?やっぱ日本語通じねぇか。気合いで通じるもんじゃねぇなやっぱ。…通訳置いて来ちまったんだがなァ」
少しも困った様子もなくガシガシと整った髪を崩す男は、しかし諦める気もないようで二つの目はしっかりと少年へ向いている。
――隙の有り過ぎる、その男に毒気を抜かれた訳ではない。
さほど興味も持たなかった
だが、
──どこで死んだって
同じか…───
そう思わせるくらいのものは持っていた男の、
その誘いに乗った。
そう単なる気まぐれ
殺すか殺されるか
そんな関係
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