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『──この事だけはアイツにばらしちゃいけねぇからな?』
日向さんの声が、繰り返し脳裏で再生される。
「うー…えーっと」
微動だにしない瞳が向けられて、突っ立ったまま視線をさ迷わせる。
「その…」
いい言い訳も思いつかない。
む、無理ですっ日向さん!
「…あ、あの、今日ねっ。
えーぷりるプール?ふーぷ?で、嘘つかなきゃいけない日なんだってっ…。オレ、知らなかったから…今年はやろうと思って」
長い沈黙に耐えかねて、居たたまれずにそう話した。
日向さんに言われたことを説明する。勿論この事は、流君の事だからそんなの知ってると思うけど。
「そ、それで…」
「……」
「午後までに、…嘘つかないと幸せになれないって言い伝えがあるって言われて…」
オレは朝最後に電話で聞いた事を話した。
「オレにとっての幸せは流君だから…流君が幸せになれないの…やだし」
そう小さい声でボソリと言うと、更に深く眉間に皺をよせて有無を言わさない低い声が降った。
「…おい、それは誰からの入れ知恵だ」
い、入れ知恵って
誰から聞いたのかって事、だよね…?
バラしたらだめって言われてるんだよね。
「…えっと」
ば、バラしたらだめって…
「あン?」
言われてたんですがっ
ごめんなさい日向さん…
オレには無理でしたーっ
最初から気づけないオレは馬鹿です。はい。
「ひゅ、日向さん」
その答えが既に分かっていたかのように、流君は一瞬目を細めるとすくっと身軽に立ち上がった。
「ど、どっか行くのっ?」
さっき帰って来たのに
もう出かけるのっ?
焦ってとっさに服を掴むと流君は横目でオレをみた。
一瞬、ドキッとする。
逸らせなくなった目線をじっと見つめていると、何でもないような風で一言。
「…殺してくる」
へ?
ななな、なんで?
「ま、待って…っ!だめだよ!すとっぷ!」
オレは颯爽とドアへ進んでいく流君を必死で止めにかかった───
その頃の日向組
(──言い伝えとかも全くないじゃないですか)
(嘘は言ってないぜ?今日はApril foolだ)
(はぁ…仁さん…アンタ命幾つあっても足りゃしませんよ…)
(クククッ…。よし上海まで逃げるぞ雑賀)
(…取りあえず、仕事してくれやしませんかねぇ)
─April fool─
4月1日正午までについた嘘は許されるというイギリスの風習の事です。
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