番外編 | ナノ
3






『──この事だけはアイツにばらしちゃいけねぇからな?』



日向さんの声が、繰り返し脳裏で再生される。


「うー…えーっと」


微動だにしない瞳が向けられて、突っ立ったまま視線をさ迷わせる。


「その…」


いい言い訳も思いつかない。

む、無理ですっ日向さん!

「…あ、あの、今日ねっ。
えーぷりるプール?ふーぷ?で、嘘つかなきゃいけない日なんだってっ…。オレ、知らなかったから…今年はやろうと思って」


長い沈黙に耐えかねて、居たたまれずにそう話した。
日向さんに言われたことを説明する。勿論この事は、流君の事だからそんなの知ってると思うけど。


「そ、それで…」


「……」


「午後までに、…嘘つかないと幸せになれないって言い伝えがあるって言われて…」


オレは朝最後に電話で聞いた事を話した。


「オレにとっての幸せは流君だから…流君が幸せになれないの…やだし」


そう小さい声でボソリと言うと、更に深く眉間に皺をよせて有無を言わさない低い声が降った。


「…おい、それは誰からの入れ知恵だ」


い、入れ知恵って
誰から聞いたのかって事、だよね…?

バラしたらだめって言われてるんだよね。


「…えっと」


ば、バラしたらだめって…

「あン?」


言われてたんですがっ
ごめんなさい日向さん…
オレには無理でしたーっ
最初から気づけないオレは馬鹿です。はい。


「ひゅ、日向さん」


その答えが既に分かっていたかのように、流君は一瞬目を細めるとすくっと身軽に立ち上がった。


「ど、どっか行くのっ?」


さっき帰って来たのに
もう出かけるのっ?

焦ってとっさに服を掴むと流君は横目でオレをみた。

一瞬、ドキッとする。


逸らせなくなった目線をじっと見つめていると、何でもないような風で一言。





「…殺してくる」


へ?
ななな、なんで?


「ま、待って…っ!だめだよ!すとっぷ!」


オレは颯爽とドアへ進んでいく流君を必死で止めにかかった───









その頃の日向組


(──言い伝えとかも全くないじゃないですか)


(嘘は言ってないぜ?今日はApril foolだ)


(はぁ…仁さん…アンタ命幾つあっても足りゃしませんよ…)


(クククッ…。よし上海まで逃げるぞ雑賀)


(…取りあえず、仕事してくれやしませんかねぇ)



─April fool─
4月1日正午までについた嘘は許されるというイギリスの風習の事です。



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