番外編 | ナノ
バレンタイン小説1



「ん〜……」


一時間前からキッチンとダイニングを行ったり来たりを繰り返し、広いキッチンで1人唸る。


「…どうしよう」


只今、激しく混乱しています……。なんってたって、今日は『バレンタイン』!
この前知ったばかりだけど
そこは気にしないの。
バレンタインっていうのは、日頃の感謝の意を込めて
チョコレートをあげる日なんだって。あ、因みに手作りの物がベストだそうで!

オレもそれを知って、今年から思い切って参加しようと思ったんだけど…。

今、凄く焦ってます。

…その理由は、
流君が甘いものをあんまり好きじゃないということ。
そんな重要な事を
作り終わった後に思い出したからで……。

正直に言います。完全に、浮かれていました。
ごめんなさい。すみません。どうしようetc.
し、しかも板チョコパッケージ裏で『ビターチョコ』という、甘くないチョコがあるのを知った。
その衝撃ときたらもう……。
こう…やり場のない怒りが…自分のせいだけども!

昔からお菓子作りに関して
一切手を付けてこなかったのが仇になるなんて思わなかった…。ビターチョコも知らないオレって…。

はぁ、とブルーな気持ちをため息に乗せて吐き出す。


「今からビターチョコ買っても間に合わないよ、ね」


誰に言うでもなく、ポツリと弱々しい声音が自分の鼓膜に響いた。
もちろん時間がないのもあるし、それに買い物は通販だから間に合わないし。通販は流君が居ないとダメだし。
どこを取っても壊滅的。
作り直す事は困難だ。

今日じゃなきゃいけないのになぁ……

チラリと未練がましく時計を見に行って、また一つため息が漏れた。

時刻は8時10分前。今日、流君が帰ってくるのは9時くらい。
そろそろ、夕ご飯の支度をしなくちゃいけない。

しょうがない。来年…
がんばろうと思います。
取りあえず、ご飯の準備を

数秒、じっと床を眺めてゆっくりとまたキッチンへ向かった。



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