April fool's day1
時刻は、午前9時半
──PurururuPururur…
「っ?!」
唐突に目の覚めるような電話音が鳴り響いた。
今の今まで、ゆったりと読書をしていたオレの心臓がびくりと跳ねて、直ぐに音の元を凝視した。
だって、しょうがない。
このマンションに備え付けられてる電話は滅多に鳴らないから。
流君に用事なら直接流君の携帯に連絡が入る筈なのである
と、いうか初めてここの着信音聞いたかもしれない…。
「流君だよ、ね?」
読んでいた本をパタンと閉じて一人頷いた。
家電に掛けてくるのは、多分流君しかいないと思う。
オレは急いで電話の方にかけて、勢いで受話器を耳に押し付けた。
「あ、えと…もしもしっ?」
もし、流君じゃなかったら何て言って切ればいいんだろ…
そんな不安に、ドキドキと鼓動が鳴ってキツく受話器を握り込む。
『─伊呂波ちゃんかぃ?』
「うっ?!は、はいっ」
意を決して訪ねると、聞いた事のあるハスキーな深い声が受話器から聞こえて、反射的に返事をした。
この声は、もしかしなくとも日向組の五代目組長さんだ。
オレは日向さんって呼んでる人。たまに珍しい物とかを送って来てくれたり、何かと面倒を見てくれたりしてる。
とにかく、顔見知りだった相手で内心ホッとして受話器を持つ力を弱めた。
『クククッ…元気で何よりだ』
受話器の向こう側から低く笑われてるのがわかり、一気に恥ずかしくなって視線を泳がせる。
と、とにかくっ
日向さんは流君に用事に違いないんだから
「りゅ…流君は、今出掛けてて」
『あン?』
…あれ?
「あ、あの流君に用事じゃ……?」
『あー。違ぇよ。伊呂波ちゃんにちょいと用があってなァ』
「は、はいっ?」
な、なんだろ
思いもよらない言葉が返ってきて、ちょっと不安になる。何かやっただろうか…
『ところで、今日何の日か知ってるかぃ?』
「え、え…何かありましたっけ」
何の脈略もなくそう聞いてきた日向さんに「?」を飛ばしながらきょとんと答える。
『April foolっつー行事、知ってるか?』
見えるはずもない受話器の向こう側で、ニヤリと笑った気がした。
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