アナタが世界でボクが色。 | ナノ


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「えと…三島君の方がいいかな」

ふと見上げると二つの視線が突き刺さっていた事に気づいてそう言い直した。

でも、"三島君"より"いっくん"の方が格好いいと思うのオレだけ…?


「まぁ、この通りな訳だ」

別段驚いた様子もなく、先生は腰に手を当てた。そんな先生の言葉に「あー」と頷くいっくん。


「?」

えーと…?あれれ…
好きに呼んで良いんじゃなかった…け。

数分前の事を思い出そうとして記憶を探ってすぐに頭を振った。

…あーう。
だめだ緊張して今日の朝食すら思い出せない。

それとも同い年の子にも敬語って必須だったのかな。でも同学年の人には敬語使わなくていいんだよね。ハリー使ってなかったよね?


「なに。モノホンの天然?」

「三島、こういう系は詳しいんじゃなかったっけか」

「いやぁ、俺恋人有りとか興味なかったからチェック外。んー…今時純粋な天然なんてプレミアだけどさぁ、…普通こんな子…俺につける…?」

「席が近かったから適当にお前選んだだけだ。偶には教師っぽい事しないと風紀なんかに怒られんだよ俺」

ボリボリと頭を掻く先生は「じゃ、よろしくな」と欠伸をしながら踵を返した。

いいタイミングで予鈴が鳴るがまだ担当の教師が来る様子はない。
三人の会話に興味津々だった生徒も聞き耳を止め、ざわざわと席について行く。

そして、考える。

詰まるところ、いっくんって呼んじゃいけないんだろうか…。

まぁ……。
…いいか。うん。
いっくんがいいし。

そう勝手に結論付けながらも、初めてのクラスでの授業に少しだけ心を弾ませた。
三年生の授業は、殆どがなんかの呪文と暗号みたいのをひたすらノートに写してただけだったけど、一年生の授業ならもしかしたら理解できるかもしれない。

鞄に入っていた教科書とノートをもたもたと取り出して机に入れて前を向くと、もう前へ向いてたかと思っていたいっくんがまだオレの動作を椅子に肘を付きながら見ていた。

一度軽く首を傾げて、会話を試みてみる。

「い、いっくん。あの次授業って」

「んー…数学。表、前に貼ってある」

恐る恐るいっくんと呼ぶとぴくりと反応して、普通に返答を返してくれる。

「ぁ、ありがと。ちょっと、見えなくて…」

「眼鏡掛けてるのに無理なん?」

「ぇ、あ…うん」

「ふーん。そう。…てっ、やべ。俺、更新の途中だったっ」

いっくんは興味なさそうに返すと何かを思い出したらしく、慌てて前へと向き直った。

こうしん?

そんな言葉に首を捻って、数学の教科書を出そうとして固まる。


黒板、
見えないんだった……。

さっき先生に言えば良かったな……。オレのばか。

つきたくなる溜め息を飲み込んで、何もしないのは気が引けて持ってきた計算ドリルをする事にした。

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