アナタが世界でボクが色。 | ナノ


クラスメイトA君

HRが終わってふと前を見ると、一つ前の子が携帯を打っているのが後ろから見えた。
HR中からずっと画面に向かっていたけど、それより何より気になったのはその驚くべき速さである。
それはもう目にも留まらぬ速さ。連続するはずの打つ音が一定の一つの音に聞こえる。

そして時折「ぐふふっ…」とか若干、いやかなり不気味な声が聞こえているのに、周りの生徒達は全くと言っていい程気にした様子はない。
きっと、いつもの事なのかも。


…指吊らないのかな


「藍川ー」


「ぁ、はい!」

見入ってると、横から声が掛かって肩が揺れた。さっきまで聞いていた声に反射的に返事をかえす。


「こいつ、三島な」

「うおぅっ!?」

いつの間にか来た牧野先生は、ガシッと先程まで携帯に夢中だった前の生徒の頭を鷲掴むと無理やり後ろへと向かせていた。頭を抑えられた生徒は、驚きに目を真ん丸に見開いて正面のオレを見た。

好奇心旺盛そうなつり目がちの瞳に、幼さの残るシャープな輪郭。チャラチャラした要素は一切無く、清潔感の漂う好青年。
不気味な声を上げていたとは思えない程、昨日の迷子先輩(迷子の時にあった先輩の略)とはまた違った格好良い爽やかさんだった。

ボール持って
サッカーしようぜ!って言って欲しい。サッカーした事ないけど。

「なになに!?俺忙しいんすけど!」

「へー、そうかァ。んじゃ藍川はお前に任せたぞ」

「………へ?はい?」

「三島は若干……いやかなり可笑しな奴だが、…まぁ大丈夫じゃないか?」

「なして疑問系」

「使えなかったら言ってくれー。他見繕ってやるぞ」

「何なに勝手に話進めんなし。そんなに問題児なの藍川サマ」

ちらりと意思の強そうな瞳が向けられて、ぱちりと瞬きをして視線を下に移した。


「あー…問題児つーか、まだ学校の地理とシステムなんかに疎いっぽいから教えてやって欲しいんだよ」

「……ふーん。んー…」

ジトー、と訝しげな視線をひしひし感じてると、ぽんっと手の叩く音が鳴った。

「あっ!じゃあ!俺様ホスト教師やってくれたr─」

「嫌だつってんだろーが。何回言わすんだそれ」

眉を寄せた先生は軽く机を蹴った。
三島君は口を尖らせてオレの方に向き直る。

「??」

ふてくされた様子で見つめてきたので、首を傾げて返す。

「…ま、いいか害なさそうだし。俺、三島 郁ての。好きに呼んでいーぜ。オープンで腐ってるからよろしくー!」

人好きのする笑みを向けて、手を差し出して来た三島君。…んー…三島くん…。

「因みに、俺あんま他人の事思いやれないし、自己中だからーそこんとこ解っといて」

「自覚あったんだな。先生驚き」

「もー。自分の事くらい把握してますってー」


あまり驚いた風もなく、面倒くさそうに話す先生と拗ねたように笑う三島君の会話が一段落したようなので、オレは三島君の袖を軽く引いた。


「あ、あっ」

「何?」

「あの、じゃあ…あの!――――は、・・・どうかな!」

オレがそう意気込みをいれて懇親の出来を提案すると、「は?」と二人同時に困惑気味に首を傾げた。












「あれ。あの。
な…名前。いっくん、じゃだめだった…?」





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