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目の前の人(恐らく先生)が止まった事でクラスの中がざわざわと騒ぎ出し始めた。それに驚いて無意識にオレの足が数歩後ろへと下がる。
着崩した派手なスーツに少しキツいスーッと鼻を通るような人工的な香りを纏う先生(仮)は、目を見開いたまま一歩前に出て後ろ手にドアを素早く閉めた。
それから、「藍川伊呂波?」と眉根を寄せて変にかすれた声で聞いてきたので反射的にこくりと頷く。
とってに手をかけたはいいが、実はまだ心の準備が……っ
「…やっと来たなー」
ぼそりと呟かれる声は先生(仮)の後ろから聞こえるざわざわとした生徒達の声で聞こえなくて「…はぃ?」と聞き返すと、先生(仮)は頭をがしがしと掻いて左手で廊下の向こうへと指差さした。
つられてその逞しそうな腕を辿り習って指の示す方向を見る。
「あー…先に職員室行くからこっち」
すっごい面倒くさそうな顔してる。
「ぁ、…はい。すみません…」
色々と申し訳なさやらをふつふつと味わいながら後をついて行く。
足を気にしながらだからか最初は付いて行くのに必死だったけど、段々先生の歩くペースが下がって来て、オレでもゆったり歩けた。
それから
ポツリポツリと前から話がかけられてちょっとした会話をした所によると、とりあえずこの人は1-B担任の牧野先生で化学を教えているらしい。
それを聞いて驚いた事が
「あー…白衣だりぃから着てねー。てか鬱陶しい」
化学=白衣は必須だと思っていたのが根底から覆されたこと。白衣ないと、実験しちゃいけないと思ってたよ!
これが
固定概念というやつですかぁ。
「そういやお前、相良流生の奴は暫くの休学届出したらしいのに藍川は此処に居るってこたぁお前はしないつもりか?」
流君の名前が出て一瞬ドキリとしていると、牧野先生が釈然としない声音で聞いてきた。
オレと流君はやっぱりワンセットで見られているらしい。いつも一緒だったから当たり前なのかもしれないけど。
それに慌てて応える。
「お、オレは、お留しゅばん、」
「お留守番なので・・・」
…噛んだぁ。
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