アナタが世界でボクが色。 | ナノ


3


思いとは裏腹に
溢れてきそうだった言葉。



『一緒に行きたい』



なんて…


“置いてかないで”
“行かないで”
って沸いてくる言葉を飲み込んで、言い慣れた
"行ってらっしゃい"
って言葉をいつものように
笑顔で言わないといけないのに

なんでだ…うまく笑えない…

無意識に下でキツく握りしめていた裾を離すと、いつの間にか流君が音も無く目前に来ていてスッと腕が伸びてくる。


パチンッ


「…、…っうぇ?!」


突然弾ける音とおでこに衝撃が走った。
一瞬、後ろにバランスが崩れそうになってなんとか持ちこたえる。
目をパチパチと上下して衝撃のあったおでこを抑えながら流君を凝視すると不機嫌な声で、「…待ってろ」って言われた。

オレはそれに反射的な返事を返しすと数秒、目が合った。
今度は一度も止まること無く大きな背を向けて、後には玄関の閉まる音がやけに大きく響いた。


シーンと成った部屋。

うー…。
い、いたい……。

でこぴんってこんなに痛いものだったんだ、なんてさらに真っ白になった頭が後からじんじんと鈍く痛みだす。



「はやく…」



オレが願えるのは、



「早く帰って来てね…流君」



これだけ。



部屋に響く
小さな自分の声が凄く弱々しく聞こえた。

余韻のように残ったのは
確かな胸騒ぎと─────


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