アナタが世界でボクが色。 | ナノ


2


◇◇◇


その後、授業が終わり
寮の部屋に帰って軽くご飯を食べてまったりしてる時だった。

ブーブーブー

突然、無機質な音が空気を震わせた。
流君の携帯だ。
机の上に置かれたそれはバイブ機能によって細かい振動を与えている。


ブーブーブーブー


…まだ鳴ってる


「…でんわ出ないの?」


少し疑問に思い、こてんと首を軽く傾げてお仕事の書類を手にしていた流君が一向に携帯を取る気配がないのでそう言ってみる。


「…………………チッ」


一切こっちを見ないで
舌打ちをされ、ビクッと肩が跳ねた。

な、なんか
ダメな事言ったかなっ

目をパチパチさせて流君を見てると少し間を置いて
流君の手がゆっくりと携帯に伸びた。

…どしたんだろ


「──要件は」


『──で────から───です──…』


横に座っているオレからは言葉の端々が携帯から漏れる程度で内容はまったく分からない。

聞いた事のある声…

暫くすると
最後に「あぁ」と短く頷く感じで通話を切った流君。


「ど、どうかしたの?」


胸の奥でざわざわするものが駆け上がってくるのがわかる。
急に不安になって我慢できずにたずねると、


「出掛ける」


流君は少し目線を合わせた後
さらりとそう言った。


──ドキリとした

流君は淡々と机の上の書類を束ね始めている。


「、…お、お仕事…なの?」


流君は何も答えない。
多分肯定の意。
面倒くさいから答えないだけかもしれないけど。

でも、…なんで?
学園に居る間はお仕事は日向さんが全部やってくれるはずで…──



…ううん。

2ヶ月間、何も無かったのがおかしかったんだよね。
だって流君は日向組の重役で2ヶ月居られただけで奇跡だったのかも…

頭の中でぐるぐる回っている間、流君はコートを掴み颯爽とドアへ移動していた。それを目で追うしか出来ない自分がすごくもどかしい。
お仕事だからオレがくっ付いて行く訳にも行かないし…

す、すぐ帰って
…くるよね?

そう何度も自分に言い聞かして立ち上がる。


「りゅ、…流君」


呼んだ声が
凄く小さくて自分でもびっくりする。
だけど流君は
聞こえてたみたいでピタリとドアノブに手を掛けた状態で止まってくれた。

すこし深呼吸

流君にいつもの言葉を言わなきゃいけないから
『行ってらっしゃい』って。

行ってらっしゃいって
言わなきゃ…


「、オレ…っ、」


途中、言いかけそうになった言葉にハッとなって小さくぶんぶんと首を左右に振る。


「ううんっ…な、何でもないのっ。いってらっしゃい!気をつけてっ」


オレはいつの間にか下で握っていた裾を離していた。


いつも通り
ちゃんと笑えてますように…

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