アナタが世界でボクが色。 | ナノ


長い一日の終わりと


◇◇◇


──部屋へと続く廊下


オレは肩に担がれた格好のまま、流君はいつもより早い足取りで歩いていた。
いつものように『降ろして』と訴える事はもちろん、身じろぎすら出来そうにありません……。
流君を囲む不機嫌なオーラが、数段に上がってるのが肌でわかる。
その証拠にすれ違う人達は、目を見開いて壁に引っ付き道を開けていた。

やばいよっ。やっばいっ
折角、落ち着いて来てたのに…っ
このまま行ったら嫌な予感しかしないー…


「流くん…お、怒って…る?」


分かり切ってる事だけど、一るの望みをかけて聞く。自然と服を掴む力が強くなりながら反応を待っていると、ガクンッと視界がゆれた。


「チッ………」


─ッ
ビクリと身体が跳ねた。通りがかる生徒達も一斉に顔が強張っているのが見える。

っど、どうしようっ
さっきの人達のせいだぁ…

オレは更に速度を上げて歩く流君の肩で、真っ青になりながら刻々と近づく部屋への道のりを待つ事しか出来なかった。



◇◇◇



「…っ!?…ぃッ、た」

玄関のドアを壊れそうな音を立てて開けて、寝室へ直行。
そのままオレはベッドに放られた。
咄嗟についた腕が鈍く痛くなる。ベッドとは言っても流君の身長から放られたらさすがに痛くて、やり過ごそうとそっと目を開けると、
そこは真っ暗だった。

サッと血の気が失せるのを感じる。

多分、ベッドに放られた勢いで外れたんだ。頭ではわかるのに、冷静になれない。さわさわとシーツの上を探る。


「…、流くん、いる?」


居る、よね。

絶対居るでしょ。

さっきまで居たもんね。

………なんで、

返事してくれないの?

周りに一切音がなくて、シーンと静まり返っている。耳をすましても息づかいはひとつ。オレだけ。オレだけ。

─返事してよ

真っ白な頭で懇願しながら闇雲に手を振り回した。じわっと目頭が熱くなるのを感じる。
嗚咽しそうな喉を振り絞って、口をゆっくり開く。


「りゅう、くん」


「あ゙?」


「…っ!」

手が何かに当たったと同時に凄く不機嫌な低い声が降ってきた。
それは
紛れもない流君の声。
多分数秒、だったんだと思う。でも、オレには何時間も経過したような錯覚を覚えた。


「び…びっくり…したぁ。急に、」


無意識に声が震えた。当たった流君の服の裾を辿って、腕に抱きつく。今度は絶対離れないようにきつくギュッと掴んだ。


「居なくなったかと…思ったじゃんっ」


流君は急に音もなく消えるあるから怖い。気配だって匂いだって消すんだ。最初からそこには存在しなかったかのように…。流生という人間はいない、そんな。


バカげている。この感触も、温もりも、香りも、全て今オレの腕の中。全部。全部。証明している。

あと、1、2、3、で落ち着く。だって流君は居るんだもん。


少し落ち着いた所で滲んだ涙を拭って
片手をベッドに滑らせた。


……ない


「…りゅ、流くんっ?そこら辺に眼鏡……ない?」

取りあえず、眼鏡
と思って聞いてみたけどふっと流君のタバコの匂いが近付いてくるのがわかって


「っ──んむッ」


いきなり肩を押され、深くベッドに沈んだ所を口付けされる。
びっくりして半開きになっていたオレの口の中に流君の舌がねじ込んできた。


「んーっ、…ふぁ…ぅ」


突然入って来た舌に自分のを強引に絡まされてクチュクチュと水の擦れる音が聞こえる。
それだけで体中の熱が上がって、どっちのものとも分からない唾液が口の端から伝った。


「ぃ、きッ…、ンんっ…、ぁ」


何度も角度を変えて執拗に口内を攻められて、力の入らなくなった腕で流君を押し返えそうとするたびに深くなる口づけ。

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