「ごめん。誰にも会いたくなんてないの」
ぼそりと誰かに告げて部屋に閉じこもる。だって、今、泣きそうだから。山本帰ってきたよとボスから直々に告げられたけど、足は動かなかった。
「無事に帰ってきたんだから顔くらい見せてあげたら?」
ちょっと苦笑いをされながら、再び来たボスに言われてしまった。思わずその言葉に俯いてしまう。
わたしは自分が思っているよりも強がりで不器用らしい。その上、涙もろい。すぐ泣いてしまう。
この世界に生きているのに。生きているくせに。生きるって決めたでしょう。本当に馬鹿で弱くて情けない。自分の大切な人が危険な仕事から帰ってきたのに、顔も見せに行けない。
ボスがわたしの頭に手を伸ばして、優しく撫でた。蜂蜜色の髪は全然変わらないなあなんて関係ないことが頭に浮かんだ。
「待ってるんだから、行ってきなよ」
ほら早くとボスに背中を押された。一歩前に足を踏み出す。どんどん早足になって思わず走り出した。
重そうなドアの前。ぜえぜえと喉の奥が苦しい。息をととのえると咳がでた。ドアに手を添えたまま不安になって思わず目を閉じた。
わたし、大丈夫だよね?涙目になってないよね?情けない顔になんかなってないよね?大丈夫だよね?
悶々と不安が飛び交って、ドアに手を添えたまま動けない。がちゃりとドアの音。えと言う前に額に衝撃が来た。
「いっ!」
「ん?お!悪い!大丈夫か?」
「……」
思わず額をおさえて顔をあげると、見下ろしたいつもの彼がいた。そりゃあ彼の方が背高いから仕方がないけれど。すまなそうに眉が下がっている。
大丈夫だよとちょっと笑っていえば、そうか?と納得したように頷かれた。部屋の中へ手招きされていつものソファへ腰掛ける。
「えっと…、山本。お帰り?」
「ただいま、だな」
なんてちょっと笑って、なんで疑問形なんだ?と突っ込まれた。いつもなら彼の方がつっこまれてるなのに。
彼が立ち上がりどこかへ消える。そして、ことりと置かれた湯気がのぼるマグカップがふたつ。
「?」
「何か落ち込んでるみてーに見えたしな!」
これ飲んで元気出せよ?と頭をぽんと叩かれた。ほらと結構無理矢理にマグカップを手に持たせられて、一口飲んだ。…ホットミルクだ。昔から山本は牛乳好きだなあ。
今なら、言えるかな?今まで言えなかった。不安も弱さも。優しく笑う彼の前で。
「あのね、」
「ん?」
彼は大人になった。
変わらないところも変わったところも確かにあるけれど。背も伸びたし、顎に傷もできた。頼もしくなったし、ボンゴレ一の剣士にまでなった。ヴァリアーのスクアーロさんにまで認められるような。今までの優しさも変わってない。確かなものなんて本当に少ない。もしかしたらそんなものはないのかもしれない。
でも、こんなわたしにだってわかるのは、彼は、山本は、今ここにいるってこと。
ああ、どうしよう。また涙が滲んできた。ボスの前だって泣かなかったのに。泣きそうだったけれど。もしかしたら、いや、絶対、安心したのか。安心したんだね、わたし。
「やま、もと、お帰り!」
目尻に涙が溜まったまま、抱きついてやった。ぼすと頭がソファに埋まった。ちょっと慌てたようだったけど、すぐたてなおす。わたしなんかの体重をいとも簡単に抱き止めちゃってるけど。わたし結構重いんだけどな。
不安だったんだからね、わたし!不安で不安で泣きたくて、あの獄寺くんが心配して見に来るほどだったんだよ?
そこまで言って、悪いとまた彼は謝って腕に力を込めてくれた。もう不安にさせねえからな!と大好きな笑顔を浮かべて約束した。
愛しい故に涙する
小指で繋いだ彼との約束
(そろそろ下の名前で呼んでくれると嬉しいんだけどな)
(え、)
20110415
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mokuji