「…何だろう、これ」


自動販売機が道のど真ん中に鎮座している。しかも、逆さま。

炭酸とか大丈夫かな?
コーヒーは振られて、ちょうどいい感じになってるかも!…って、違う違う!

目を閉じてもう一回開けてみる。消えない。

あれ?嘘。これ、現実?

また、信じられなくなって、もう一回、目を閉じた。

よし、開けよう。目に力を入れて瞼を持ち上げる。


「……あ?」

「え」


ばっちり目があった。

自動販売機に手をかけている私よりもだいぶ背の高い金髪の男の人。口に煙草を加えている。


「…何か用か?」

「いえ、別に…」


慌てて首を振る。

いや、何も用はない。用はないんだけど…。自動販売機になんで手をかけてるんだろう。ちょっと、疑問。


「もしかして、アンタ、飲み物買おうとしてたのか?」

「はい?」

「…悪いな。これ、元に戻しとくからよ。いや、もとはといえば……あの野郎!」


ばきり。

その人の拳が地面に振り下ろされ、割れた。

ん…?割れた?

ぱちくり。

目を瞬かせる。いや、そうじゃなくて。割れちゃったよ。アスファルトが!

…謝ったところを見ると、悪い人には見えない。


「…、あの」

「…なんだよ?」


まだ、その男の人の怒りはおさまらないようでちょっとイライラしている。

…ちょっと怖い。いや、本当にちょっとだけ。


「手伝いましょうか、それ」


自動販売機を指差して言ってみる。

ぽかん。

ちょっと男の人が動きを止めた。


「…いや、いい」

「ですよね」


やっぱりとちょっとだけ笑う。無理だよね。わたし、力仕事向いてないよね。


「…アンタ」

「え、あ、はい」

「変わってるな」


ちょっぴり、お兄さんが笑う。サングラスで隠れた目元が優しくなった。煙草の煙がゆらりゆらりと登って消えていく。




人工的な金色が眩しい

(…平和島静雄っていう)
(平和島さんかあ…わたし、みょうじなまえです)
(…俺のこと、知らねえのか?)
(有名人なんですか!?)
(いや、やっぱいい。気にしないでくれ)


20110324

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mokuji



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