もう駄目かもしれないなんて
私は泣く
嫌な感じにもやもやが胸の中でぐるぐるまわる。気持ちが悪い。私はもうガキじゃない。だから、私は泣けない。泣けないんだ。本当は、泣くことなんかしたくない。だって、後が面倒くさいから。
後で恥ずかしくなって後悔するのは私、なんだもの。わかってる。簡単に泣くなんてこの歳になってするもんじゃない。そうでしょう?この世界に馴染めない私が悪い訳でもない。でも、誰かが悪い訳でもないし。
だからこそ、もやもやは止まらない。
もやもやもやもやもやもや。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
あーあ、私の中で消えてくれないや。…そう、なんて馬鹿な私。自嘲気味に笑う。
「…大丈夫なんか」
ぼそりと低い声。机に突っ伏していた顔を上げれば、思ったより近くに勝呂が立っていた。
「大丈夫だよ、…多分」
はははと空元気に笑う。ますます勝呂は渋い顔。
んな顔してると眉間の皺、本当に消えなくなっちゃうよ?
小さくため息をつきながら思う。もしかしたら、励まして欲しいのかもしれない。自分で大丈夫だと言っておきながら、本当は確証もないし、烏滸がましいけれど。肩をすくめてみせた。
勝呂が眉間に皺を寄せたまま、困った顔をする。別に、困らせたいわけじゃない。そりゃあ、勝呂は見た目はいつも通りの渋い顔で、知らない人から見れば、困った顔には全然見えないんだろうけど。なんか分かっちゃうんだよね、困ってるの。
「……」
「……」
ちょっとした沈黙の後、私は口を開いた。
「…そういえば、志摩くんとか子猫丸くんは?」
「あん?…なんでそこでアイツらが出てくるんや」
「なんでって、いつもいるじゃんか。お二人さん」
「……」
勝呂が沈黙し不機嫌そうな顔になる。そして、口を開いた。
「…お前まで俺の取り巻きみたいに言うなや」
「…あ、うん。そっか。…ごめん」
燐君もそーいや言ってたな。身内同士で固まってるとかなんとか…。
その通りな気がしなくもないんだけど。
「…何か言うたか?」
「なーんにも」
やっぱり、身内同士で固まってるところ、気にしてるんじゃんか。ちょっと可笑しくなって笑いながら首を振れば、勝呂の眉間のしわが浅くなった。そして、盛大に息を吐いて、安心したように勝呂も笑う。
「…何?」
よく分からないので、思わず口に出してみた。
「やっと笑うた」
「は?」
「…いつまでも、んな顔さらしてんねや、阿呆ってことや」
額に手を伸ばされて勝呂にデコピンされる。いや、結構痛いんですけど!ちょっと涙目になりながら、この野郎と睨みつけたが、ふんと鼻で笑われる。額を手で抑えながら目線をはずした。赤くなってるよね、絶対。
「お前がんな顔してると気色悪いんや!」
「き、気色悪い!?どういう意味だ!」
びしいと目の前に突き出された人差し指に目が点になる。
気色悪い!?なんでんなこと言われなきゃいけないの!?普通、人が落ち込んでるときにそんなこというか!?
「…よし」
腕を組んだ勝呂。その満足げな得意な笑みに腹が立つ。…ところで、よしって何?
「…?」
「完全復活したやろ?」
…そういえば。勝呂の言葉に納得する。なんかどうでもいいや。
…どうでもよくなっちゃったよ。
「…結構、無理矢理ね」
渋々、負けを認める。腹が立つけど。ふん、このトサカめ。
「んじゃ、飯でも食いに行くか」
志摩も子猫丸も待っとるやろうし。いつものように歩き出した。
その背中に跳び蹴りをする。すっきりした。勝呂の悲鳴と怒声が聞こえたが、気にしないことにしてはしりだした。
びゅんびゅん飛び越える景色と走りながら、片隅で思った。
まあ、一応感謝はしてるんだけどね、これでも。でも、有難うは言わないから。
そして、消えちゃう
暗い気持ちも何もかも全部
(聞いてよ、志摩くん子猫丸くん。勝呂が私のこと気色悪いって)
(坊、そんなこと言うたん!?気になるから先帰れって言うたのぼ(黙れ、志摩)…痛っ痛いですよ、坊)
(ぼ、坊、落ち着いてください)
20110527
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mokuji