夜空を見上げた。

真上には満点の星空がある。絶好の星見びより。昼間と同じ空なのに、こんなに沢山の星が隠れている。不思議だなあ。

今日は特別な日。愛しいひとが1年に一度会うことができる唯一の日だ。でも、そのお話は私は好きじゃない。好きになれない。ロマンチックだよねなんか言えない。そのお話の人たちを自分のことのように心痛めているわけでもない。ただ気の毒だと思うのだ。

もし、神様がいるなら、なんでそういう運命のまま放っておくんだろう。ただ哀しいだけじゃないか。運命は変えられないのだと嘆くだけじゃないか。ひどいと思う。本当に。

出来るのならば、

そう思いながら、空を見上げている。小さな七夕飾りと短冊を下げた笹を持ったまま。


「…何してんだ?」

「あ、ぬいぬいだ」

「その呼び方止めろ!」


翼だけで十分だと焦ったように頭をかいた彼に冗談だとわたしは笑って見せた。大半は本気で吹き出した。


「で、こんなとこで何してんだ?」

「せっかくの七夕だから、味わおうかと」


ひょいと笹を見せた。七夕飾りをつけたしょうもない小さな笹だけど。


「なんだ、お前もか」


彼は頷いて、隣に腰掛ける。


「お前 "も" ?」

「ん?ああ、俺らも作ったんだよ、今日」


ほらそこと指さされた先に目を向ければ、立派な笹に賑やかな七夕飾りと数々の短冊がついている。


「生徒会で?」

「まあな」


ちょっと威張ったように笑う彼はどこまでも誇らしげだ。


「なんか、お父さんみたいだよ、一樹」

「…それを言うか、お前」

「…気にしてたんだ」


いいじゃん。一樹。慕われてんだよと拗ねたような彼に隠れてちょっと笑う。


そういえば、彼は昔からそうだった。この引っ張っていく性格もだけど、喧嘩も強くて。俺様だけどちゃんと周りを見ていて、守ろうとする。それだから、敵も多くて。でも、いつからだろう。私や周りが怪我をするたび、追いつめられるたびに、彼のほうが痛いような泣きそうな顔をするようになったのは。

彼が星詠みをできることを私は知っている。つまりは、未来が見えるのだ。でも、彼は泣かなかったし、痛いとも言わなかった。


「ねえ、」

「なんだ?」


黙って空を見上げていた彼は私をみた。


「幸せだと思う?織り姫と彦星」

「…さあな」


ちょっと考えて彼は首を傾げた。彼から目をそらして、私は口を開く。


「私、織り姫と彦星の話嫌いなんだよね」

「へえ、そうか」

「…運命は変えられないって言われてるみたいで」


諦めろって言われてるみたいで。

だから。嫌い。なんだよ。

わたしがそう言うのを彼は目を瞬かせていた。そしてふと笑った。


「お前、昔から変わんねえよな」

「…そう?」


それが何よ?と口をとがらせて言おうとしたが、それだけに止まった。彼が見たこと無いくらいに優しい顔をしていたから。こっちが泣きたいくらいに。おかしいよ。ただ優しい顔をしているだけなのに。


「六等星って分かるか?」


彼の言葉にただ首を振った。いつもみたいにこれくらいは知っておけよなんて彼はからかわなかった。彼より私は成績が悪いからいっつもからかわれてたのに。


「簡単に言うと、やっと見える星のことをいうんだ」

「うん」

「俺らに全く見えない星もある」

「…うん」

「不思議だろ?…俺にも見えない未来があるのかもしれないなんて思えてくる」

「……」


昔、彼に何も知らない私が言った言葉だ。

この世界には沢山の未来があるんだよ。それが悲しかったり楽しかったり嬉しかったりするんだよ。不思議だね。君にも見えないたくさんのことがこれからあるんだよ。一緒にそれを見ていこうよ。隣に私はいるから。

(…なんでそんなこと分かるんだよ?)

初めて彼が泣きそうな顔で言った。何も知らない私は馬鹿みたいに口を開く。自信満々で。

だって、私には分かるんだよ!

(なんだそりゃ)

あれ?笑ってるし。何もおかしいこと言ってない!

なんて追いかけ回したあの日。


「あの時から、俺は、お前の言葉に救われてる」


お前の存在で前を向ける。…だから、そんな顔すんな。

頭をくしゃりとされた。頬がくすぐったいなと思って、触ってみれば指が濡れた。泣いてるな、わたし。目の前の彼は泣いてないじゃない。


「な、泣くな!」


慌てた様子だったが、しばらくすると目尻を指で拭ってくれた。びっくりして顔をあげると、彼は笑っていた。


「ありがとな」


また泣けてきて彼がごしごし私の目元を擦る。

痛いよ、馬鹿。




六等星のまたたき
ねえ、夜空にあなたの幸せを一番に願うから


(ずっと一緒にいよっか)
(当たり前だろ!)




○七夕企画 天の川さまに提出



20110426

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