カウントダウン | ナノ



後編(3/10)


 
 
 
 
 
「…ところで、ロイがここに来てるって本当?」

「ピーチが連絡してたからな」


これは非常にまずい。こんなのをロイに知られたら、見られたら確実にロイは怒る。ロイはこういう面倒ごとが嫌いだからなぁ。


「…逃げようとしても無駄だと思うぜ」

「え?ちょ、待っ…!」


楽しそうに私を見て笑い、その場から立ち去ったのを追おうと走った…が、私は直ぐに足を止めた。…目の前にロイがいたからだ。


「ロ、ロイ…!」

「………」


じっと見てくるロイに私はパニックになる。どうしよう、完全に怒ってる。やっぱりこういうの嫌いだし、それにバイトの邪魔したから?いやそもそもその前から私達喧嘩してたし、それなのにこんな事になってるから火に油を注いじゃったんじゃ。


「…ちょっと来い」

「わっ!?」


ロイの低い声が聞こえて腕を掴まれた。また倉庫に戻される。痛い。ロイに掴まれている腕が痛い。そう思っていると離してくれた。


「…ピーチさんから電話があった。アイリに何かあったのかもしれないって」

「そ、そうなんだ…」


ロイの顔が見れなくて目を逸らす。この状況で顔なんて見れるわけが無いから。怒っているから、余計に。


「朝から怪しいとは思ってたが…。お前、女子に嫌がらせを受けてたんだろ」

「…ち、違う…」

「じゃあ何で頬が腫れてんだ!」


ロイの手が先輩に叩かれた頬に触れる。ロイの顔を見れば怒っているのか心配してくれているのかよく分からない表情。…そんな顔、しないでよ…。


「こ、これはお互い様だから。私だって先輩に平手打ちしたんだし」

「そういう問題じゃないだろ!とにかく、俺が…!」

「駄目!」


今にも言いに行こうとするロイを引き止める。駄目だよ、そんな事言ったらあの人達が停学になってしまう。しかもロイが原因で。そんなのは流石に嫌だった。


「私はいいんだってば。それより、ごめんねロイ…!」

「…何でアイリが謝るんだよ」

「卵焼きの事もそうだし、それにバイトの邪魔しちゃったし、ホントごめ…っ!」


全ては私が悪いと思ったから必死で謝った。が、途中で何も言えなくなって頭が真っ白になった。ロイに抱きしめられている。それもかなり力強く。こんな事は初めてで一気に胸がうるさくなる。体が動かなくなる。


「いいから、喋んな」

「…ロ…イ…?」

「助けてやれなくて悪い」


ロイの声が震えている。よく見ると汗をかいているのがわかった。…急いで、来てくれたの…?そう考えれば胸が暖かくなってロイの優しさで満たされる。


「ロイは…悪くないから…。心配してくれて、ありがとう…」

「…馬鹿野郎」


もっと強く抱きしめられる。そんなロイに私は泣いてしまった。力を抜いてロイに体を預ける。不思議だ。ロイにこうしてもらえるだけで頬の痛みも無くなってくる。ありがとう…。
 
 
 
 
 

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