銃声が響き血が流れる。だけどそれは私の血。私がベヤードさんを押し倒して当たらせないようにしたからだ。代わりに自分の頬に弾丸掠りそこから痛みと共に血が流れているのはわかっていた。
「明…」
「…っ、ごめんね…」
邪魔をしてしまったのは自覚していた。トレインさんが本気で撃つわけがない。そう思っていてもサヤさんが助けてくれた人にトレインさんが撃って傷つけるなんて行為をしてほしくなくて、体が勝手に動いていた。
目が合って少しだけ見つめ合うが、トレインさんは私達の横を通り過ぎていく。
「…あんたが決めた生き方だ。文句つける気はねぇ。少なくとも俺は…飼うのも飼われるのもゴメンだね」
最後にそれだけベヤードさんに言い、出ていった。私はトレインさんを追いかける前にベヤードさんに言いたい事を言う。
「…サヤさんと同じ事を言いますが…。本当にもうこんな事しないで下さい。トレインさんにも近づかないで下さい。…あなたが危なくなるだけですから…」
切実にそう思ったから。せっかくサヤさんに助けてもらった命を簡単に投げ出さないでほしい。それだけ言って立ち上がり外に出ても騒ぎにならない様に血を持っているハンカチでひとまず拭う。そしてトレインさんを追いかける為この場から出ていったのだった。
「トレインさん…待って…!」
なんとかトレインさんを見つけたものの歩くスピードが速すぎて息が乱れる。するとトレインさんは止まってくれて。背中を向けたままだけど止まってくれた事に安心して足を止めた。怒っているのだと思い、息を整えて謝ろうと口にする。
「…あの、勝手な事して…ごめ「謝るなよ」…え?」
「あいつに言った事が間違ってるとは思ってねぇ。けどあんな事で一々怒るのはどうかしてるよな」
自嘲する様に笑いながら言うトレインさん。どうしてそんな事を言うのかがわからなかった。…思った事を言っていいのか悩むが、トレインさんに自分の事をそんな風に言ってほしくなくて口を開く。
「トレインさんは正しいよ」
「…!」
「だってトレインさんはサヤさんの事を想って怒ったんだよね?部外者の私でも聞いてて正直怒ってるし、トレインさんがそうなるのは当たり前の事だと思う」
私だってもし大切な人をあんな言い方されたら怒るに決まってる。力が無くても絶対口で言っている。それにね。
「私の勝手な想像だけど…きっとサヤさんは喜んでいると思うな。もし私がサヤさんの立場だったら嬉しいもん」
自分の為にここまで怒ってくれて。凄く嬉しくなるよ。
「明」
「ん?」
「…サンキュ」
やっとこちらに振り向いてくれて笑ってくれる。それが嬉しくて私も笑う。トレインさんは私に近づくと先程少し掠って血が出ていた頬に指で触れる。ハンカチで拭ったから血は止まっているだろうが、痛みはまだ少しだけある。それをわかっているのか、傷口に優しく触れてくれる指にドキドキした。
「悪い、痛かっただろ?」
「大丈夫だよ。前に出た私が悪いんだし」
「バーカ。そういう問題じゃねぇよ」
コツンと私の頭に軽く拳を当てるトレインさん。…トレインさんは本当に優しいね。
「お。スヴェンと姫っちだ」
「!ホントだ」
私の後ろから二人が歩いてきて向こうもこちらに気づく。何故か釣竿と…バケツを持ってるけど…。
「よ!」
「どこほっつき歩いてたんだ?」
「へへ…ちょっとね」
「明も一緒だったんだ」
「うん。途中で会ったから」
「デート…というわけではないか」
「そうみたいだね…」
目の前で二人が何やら小声で話しているのだけど…何話してるのかな?ちらちらと私達を見てくるから余計に気になる。
「何話してんだよ」
「何でもない」
私とトレインさんは顔を見合わせて首を傾げる。早くご飯を食べて次の仕事の話をするから宿に戻るぞ、とスヴェンさんは言う。そのご飯とは…バケツに入っている魚。どうやらスヴェンさんが釣ったみたいだ。その魚を見てトレインさんは「…マジ?」と残念そうな顔で言うのだった。
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