「…いいの?」
「ん?」
「見逃して…」
「いいんじゃねぇの?賞金は誰にも渡さねぇって言ってんだし。次はわざわざ向こうから来てくれるってんだからよ」
次はいつ来るのだろう。いきなり来られてもスヴェンさんが困りそうだな。あ、でも捕まえれたら賞金がって頑張って捕まえようとするかもしれない。
「…ホントに甘いのね」
「何?」
「あいつの言う通りそんなんじゃいつか誰かに足下すくわれるかもよ」
「…心配してくれてんのか?珍しい事もあるもんだ」
からかうようにトレインさんは笑う。リンスさんは優しい人だもんね。そう思っていた次の瞬間リンスさんの拳がトレインさんの頬に直撃した。
「えええっ!?リンスさん!?」
「…カン違いしないで!あんたにはまだまだ利用価値があるから死んでもらっちゃ困るのっ」
リ、リンスさんってまさか…ツンデレ?いやそれよりも…。
「大丈夫?痛そう…」
「ったく、加減しろよな…」
「あんたがそんな事言うからでしょ!」
トレインさんに近づいて少し腫れている頬を見て声をかける。頬の事もそうだが、もう一つ心配もしていた。
「…私は心配だよ」
「明?」
「トレインさんが強いってわかってる。けど、もし…」
もしもの事を考えると…怖い。これ以上人が死ぬのは嫌。ましては大切な人達が死ぬなんて…。
「…大丈夫だって」
私が暗い表情をしていたからか少し困った顔をしながら私の頭を撫でてくれる。
私って単純…なんだろうな。トレインさんがこう言ってくれたからか不安がなくなった、なんて。
「無理はしないでね」
「ああ」
トレインさんの笑顔を見るとやっぱり安心する。不意に「…何となくわかったよ…」とリンスさんの声が聞こえた。
「伝説の抹殺者黒猫を変えた存在。…それが"ミナツキサヤ"。…そうでしょう?」
「…あいつは親友だよ。俺は…あいつの生き方に憧れたのさ。自由気ままで…誰にも縛られない野良猫のようなあいつの生き方に…」
(…野良猫…)
(そんな人を…トレインさんは…)
自分の事じゃないのに胸が苦しかった。親友、か。司は今どうしているのだろう。会えないとはわかっていてもどうしても気になってしまう自分に嫌気がさした。
あれからリンスさんと別れてトレインさんと一緒に宿に帰っている。二人とも何しているのかな。一応遅くなるかもとは伝えたから心配とかはされてないとは思うけどね。
「…リンスさん行っちゃったね」
「寂しいのか?」
「せっかくだからもう少しだけ話せば良かったなって…」
「ま、縁がありゃその内会えるだろ」
「…そうだね!」
次こそはちゃんと話さないと。初めて話した時はリンスさんのスキンシップ?なのかな…。と、とにかく勢いが凄すぎて何も言えなかったから…。
それからしばらく無言が続く。何を話したらいいのかがわからなかった。しかしトレインさんが口を開いてくれた。
「明。さっきの…サンキュ」
「え?さっき…?」
「ルガートに言ったこと」
ルガート…?あ、あの男性の名前?言ったことって…昔から優しい人だと言った事かな。お礼を言われるような事ではないと思う。
「私はただ思った事を言っただけだよ?むしろ…余計な事言っちゃったかなって思ってたんだけど…」
「そんな事ねぇよ。けどまあ、明も言う時は言うんだなって思ったけどな」
「うっ…。わ、私も今更になってよく言えたなって思う。今同じ事をあの人の目の前で言ってみろって言われても…言えるかどうか…」
本当に自分でもよく勇気を出して言えたと心底思う。勿論怖いという気持ちもあった。今もあの殺気を思い出すだけで怖いぐらい。…だけど、私がトレインさんに感じた想いを口に出しただけ。
一方トレインさんは私を見てなんだよそれ、と笑ってくれる。
「でも本当にありがとな、明。なんつーか…嬉しかった」
「そ、そう…?そう言ってくれるなら私も嬉しい。ありがとう…」
私はいつもお節介って言われてたから。こんな事言われたのはあまり慣れてなくて…嬉しくなる。と、同時に恥ずかしい。特にトレインさんに言われると余計に。男の人だからかな…?
「え…トレインさん?なんか顔、赤い気が…」
「な、何でもねぇよ!」
ちらりとトレインさんを見ると少しだけ顔が赤い気がして言えば目をそらしながら言うトレインさんに対し、大丈夫かな?と心配になりながらも恥ずかしさを抑えていった。
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