戻ってきたユヅキさんは何処か疲れた表情だった。心配だったから大丈夫かと問えば笑顔で返してきたからきっと心配ないとは思うけど…。
改めてベンチに座って先程買った飲み物を渡す。もう随分時間は経っていて夜に近づいている。遊ぶのが楽しくて目的を忘れそうになっていた。
「あのね、今日ユヅキさんを呼んだ理由は」
「私を心配してくれたのでしょう?申し訳ございません、明さんにご迷惑を…」
「迷惑じゃないよ。だって友達だから」
ね?なんて笑えば同じ様に返してくれるユヅキさん。もしも話すだけでも気が楽になるのなら私は聞くし、聞いてほしくないのならば私は追求しない。無理に聞くのは良くないもんね。
しばらく沈黙になる。しかしこの沈黙を破ったのは。
「…司の事ですが」
ユヅキさんだった。私は話してくれる事に嬉しく思ったが、同時に内容に驚いた。まさかユヅキさんから司の話をされるとは予想もしていなかったから。
「明さんは司に、その…自分の姉が亡くなった原因を知った時、どう思いましたか?申し訳ございません、辛い事を思い出させて」
「ううん、構わないよ。…私のせいで海姉ちゃんがって、悲しくて、辛くて…私に生きている価値なんて無いと思った」
だけどその後にトレインさん達、そして…シズクさんのおかげで私は生きなければと思えた。司を救わないといけない。今度の闘いで…必ず司を助けてみせる。
改めて決心するが、今はそういう場合じゃなかったと切り替えて再びユヅキさんの目を見る。
「一つ、気になりませんでしたか?」
「え?」
「司はその場面を見ていた。つまり司は明さんと出会っていたのです。それでも学生の時に初めて出会ったかの様に接した理由…」
「それは私に気づかなかったからじゃ…」
違います。ハッキリ断ったユヅキさんが言うには、司は私があの場面にいた女の子だと気づいて私に話しかけたらしい。
あの時の話を、知りたいか。静かに私に確かめる様に見てくるユヅキさんに私は…。
「海姉ちゃんが亡くなった時を知りたい」
自分が原因で亡くなったのならば、尚更。少しは思い出したけれど、もっと知りたい。勿論怖いという気持ちもあるけど…私は知らなければならないから。いつまでも逃げる訳にはいかないから。
「わかりました。では目を閉じて下さい。そう、そのまま息を吸って…吐いて…」
言われるまま瞳を閉じ何度か深呼吸をすれば、ぐらりと体が揺れた気がして思わず目を開けてしまった。瞳に映ったのは、小さい子供と姉の様な人。
『海姉ちゃん、早く!』
『走ったら危ないわよ、明』
今にも楽しくて仕方が無いという表情でボールを大事に抱えてはしゃぐ子供は…私。そして私を心配して注意する人は…海姉ちゃん。この後何が起こるかなど知るはずもない二人。私は知っているから近づく度に心臓の音が大きくなっていく。…目を逸らさない。私は知りたいのだから。
目の前の光景を心に残す様に私は見つめていたのだった。
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